メタバース上にもサンクチュアリを出店
他方、オンライン戦略に関しては、メタバースの可能性に着目しているようだ。今年2月には、メタバース空間のゲームプラットフォーム「Roblox」に「アロサンクチュアリ」がオープンしている。前述のNYFWに開催に合わせた出店であり、それを記念して公開されたPR動画が初日の夜だけで100万回再生されるなど大きな注目を浴び、その後Roblox上のサンクチュアリの利用者は3カ月で2500万人を超えている。
アロサンクチュアリは、社名の由来であるAir、Land、Oceanの要素を含んだ”美しい島”の中で構築されている。プレーヤーは島内を探索することで、さまざまなヨガの「ポーズ」をとることができるようになる。また毎日のログインや、アバターを通じた「瞑想」を行うことで、アバター用のオリジナル製品を手に入れられるなどの特典も用意。こうしたサービスを通じて、ヨガやマインドフルネスの体験をより多くのユーザーに広めているのだ。
顧客との「つながり」をアセットとして成長
Alo Yogaが展開するデジタルマーケティング戦略に学ぶことは多い。顧客はもちろん、インストラクターやインフルエンサーとデジタルでつながり、そのつながりを「アセット(資産)」として成長し続ける仕組みが構築されているのだ。
ターゲットとそれに適したチャネル・メディアをあらかじめ明確にし、ヨガ関連であれば有名インストラクターから、ファッションであれば人気インフルエンサーのSNS、Z世代を中心とした若年層のヨガ市場への取り込みについてはメタバースから、といった具合にあらゆる接点から顧客とつながりAlo Yogaの世界へと誘導していく、というわけだ。
実際にAlo Yogaのアプリやメルマガ、SNSアカウントなどに触れるとわかるのだが、製品の発売手法もデジタルの強みを活かしたものになっている。毎週のように新商品や新カラーがプロモーションと合わせて発売され、発売日当日にはインストラクターがさまざまなポーズで着用した画像がリリースされるほか、スタイリング提案も行われ、カラーやパターンによってはすぐに完売する。つまり小ロットを短期間で売り切るという販売手法がとられているのだ。情報発信と販売をセットにしたプロモーションを単品ベースで行い、”主役コンテンツ”を毎週のように訴求するという、デジタルに強いブランドが得意とする戦略である。
リアル店舗を中心として考えた場合、例えば20色あるレギンスをすべて並べて売るのが効果的だろう。しかしデジタルを中心に考えると、まずは10色を発売した後に、毎週1色ずつ情報コンテンツとともに追加しながら販売していくほうが、購買確率や一人当たりの購買点数が向上する。もちろんこの戦略は、情報を届ける顧客とデジタルでつながっていることが前提になる。その点で、Alo Yogaはこの「つながり」を、前述のとおりアプリ、メルマガ、SNS、メタバースを介して持っており、効果的な運用ができるのだ。
そうした一方で、Alo Yogaは意外にもポイントプログラムを導入していない。これは金銭的メリットによるつながりでなく、情緒や体験を通じたつながりを重視しているからであろう。
デジタルで顧客とつながっているからこそできる、リアルの出店戦略や集客、体験によるエンゲージメントの強化――。デジタルでのつながりをアセットとして差別化要素を磨き、成長し続ける企業は今後どんどん増えていくかもしれない。
提供元・DCSオンライン
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