クマムシ遺伝子のヒト細胞への導入がはじまっている

結局クマムシの驚異的な耐久性は何のために進化したのか?
(画像=クマムシ遺伝子のヒト細胞への導入がはじまっている / Credit:Canva、『ナゾロジー』より引用)

細胞が乾燥すると何が起こるのか?

20世紀の後半になると、乾燥した細胞に起こるダメージの詳細が明らかになってきました。

乾燥した細胞では単に表面にシワやひび割れを起こすだけでなく、細胞内のタンパク質が変質を起こして、機能が停止してしまいます。

また乾燥が進むと細胞内に残った残った水は水素(H)と水酸化物(OH)に分解され、ラジカルと呼ばれる有毒な化学物質を発生させ、DNAを破壊することが明らかになりました。

クマムシが生き残るには、何らかの方法でDNAへのダメージを防がなければなりません。

2016年、日本の研究者たちはクマムシは、地球上の他の動物にはみられない「Dsup(ダメージサプレッサー)」と呼ばれるタンパク質を生成しており、この「Dsup」にはDNAに結合して有毒物質から保護する機能がある可能性が示しました。

さらにクマムシの遺伝子から「Dsup」の遺伝子を切り出して人間の細胞に加えたところ、人間の細胞も放射線や有毒物質に対して高い耐性を持つように変化したことが示されました。

2020年にはタバコにDsup遺伝子が導入されタバコのDNAを損傷から保護し、成長速度も増加させることに成功しています。

1773年からはじまったクマムシの研究は着々と進歩し、250年かけてヒト細胞に対して応用できる域に到達しました。

もしこのまま研究が順調に進んでクマムシの驚異的な耐性を人間やその他の生物にも完璧に付与できるようになれば、地球生命は宇宙環境にも適応できる、新たな段階に到達するかもしれませんね。


参考文献

Tardigrades could teach us how to handle the rigors of space travel

元論文

Extremotolerant tardigrade genome and improved radiotolerance of human cultured cells by tardigrade-unique protein


提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功