動物の腐肉をエサにする昆虫は、その強烈な匂いに反応して死骸を探します。

北アメリカ東部に分布するシデムシの一種、Nicrophorus orbicollisもそのひとつ。

ところが、彼らの場合、地下の巣に運んだ死骸が、同種のライバルに見つかることはありません。

コネチカット大学(アメリカ)、バイロイト大学(ドイツ)による最新研究の結果、シデムシは、死骸に形成される微生物叢を操ることで、ライバルが探知できない匂いに変えていることが判明したのです。

研究は、1月14日付けで『Ecology and Evolutionary Biology』に掲載されています。

目次
ライバルを誘引する微生物を「殺菌」していた!

ライバルを誘引する微生物を「殺菌」していた!

シデムシ(死出虫)は普通、オスメスのペアで地中に巣を作り、その中にミミズや小鳥、ネズミの死骸を運び入れ、子どもたちのエサとして加工します。

死骸が腐っていく過程で微生物が増殖し、揮発性の化学物質が生成されるのですが、これが匂いの元となります。

腐肉の匂いは、エサや繁殖のパートナーを探して空を飛ぶライバルのシデムシを引き寄せてしまいます。

ところが、実際のところ、シデムシの巣がライバルに見つかることはありません。

同種であれば、同じ腐肉の匂いに反応できるはずなのに、これはどういうことでしょうか。

死体を食べるシデムシはライバルを誘引する「死臭を殺菌」し、別の匂いに変えていたと判明
(画像=N.orbicollis / Credit: en.wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

研究チームは、シデムシを引きつける化学物質を特定するべく、調査を開始しました。

1組のモンシデムシ(N.orbicollis)によって加工されたマウスの死骸と、シデムシには一切触れられていない新鮮なマウスの死骸を用意し、そこから放出される揮発性物質をガスクロマトグラフィー質量分析法で比較します。

その結果、驚くべきことに、シデムシに加工された死骸は、2種類の硫黄化合物、「チオシアン酸メチル」と「チオ酢酸メチル」の量が20倍以上減少していたのです。

この2種は何らかの昆虫を誘引する物質としては知られていませんでしたが、その後、チオシアン酸メチルに、シデムシを引きつける効果があると判明しました。

自然下で、チオシアン酸メチルを塗布した死骸を複数埋めてみると、その90%以上が、最初の一晩でシデムシにより見つかっています。

塗布しなかった死骸では、発見率が0〜20%と段違いでした。

それでは、死骸を加工したシデムシは、どうやってチオシアン酸メチルを減らしたのでしょう。

死体を食べるシデムシはライバルを誘引する「死臭を殺菌」し、別の匂いに変えていたと判明
(画像=シデムシにより加工された腐肉(右) / Credit: Stephen Trumbo、『ナゾロジー』より 引用)

死骸を巣に運び入れたシデムシは、オスメスで協力し、昼夜を問わず毛を刈り込み、腐肉を団子状に丸めます。

この時、シデムシは、露出した死骸の肌に肛門から分泌される体液を塗りつけます。

研究チームは、ここに目をつけました。

分泌液を調べてみると、成分として抗菌物質が含まれる一方で、シデムシの腸内にいた微生物も見つかっています。

(下の動画は、シデムシがマウスを加工する様子です)

この分泌液を死骸に塗布することで、シデムシ由来の微生物叢が皮膚上に形成されるのですが、これにより、チオシアン酸メチルが極端に少なくなっていました。

つまり、シデムシは自らの分泌液で、ライバルを引きつける化学物質を「殺菌」していたのです。

さらにその一方で、「ジメチルトリスルフィド」という硫黄化合物の量が大幅に増えていました。

これは、シデムシが反応できない化学物質として知られます。

まとめると、シデムシは、ライバルを誘引する化学物質を減らしつつ、同種に探知できない化学物質を増やしていたのです。

研究主任のスティーブン・トランボ氏は「微生物により操作される宿主は多いが、微生物を巧みに操るシデムシは極めて珍しい存在です」と評しています。


参考文献

Beetle Parents Engage in a Smelly War of Disinformation to Keep Their Nests

元論文

Burying Beetle Parents Adaptively Manipulate Information Broadcast from a Microbial Community


提供元・ナゾロジー

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