不規則な形の巣を作るヒメグモは、自分よりはるかに大きい獲物を捕らえる名手として知られます。
一方で、それを可能にする巣の仕組みはよく分かっていませんでした。
しかし今回、イタリア・トレント大学により、ヒメグモの「ジャイアントキリング」の方法が初めて解明されました。
ヒメグモは、滑車のような巣を作ることで、巨大な獲物を宙に引き上げていたようです。
研究は、2月3日付けで『Journal of the Royal Society Interface』に掲載されています。
5種類の糸を使い分けていた
本研究では、2種のヒメグモ(Steatoda paykulliana、Steatoda triangulosa)を用いて、中南米産のゴキブリ「デュビア」を持ち上げる様子を観察しました。
クモの重さは約0.22グラム、デュビアは約0.56グラムと3倍近くあります。
それぞれを黒い紙で覆われたプラスチックの箱に入れ、巣の建造〜捕獲までをカメラで記録しました(黒い紙はクモ糸を見えやすくするためです)。
最初にクモは、箱上部に不規則に見える巣の骨組みを張り、そこから粘着性のある糸を何本もぶら下げました。
これは下を通る獲物を引っかける目的と、獲物がかかったことをクモに知らせる目的があります。
下はトカゲを想定したイメージ。
かかった獲物が小さな虫であれば、持ち上げるのは1本の糸で十分です。
しかし今回の相手は、クモよりずっと大きいデュビア。
するとクモは、巣上で静観するのをやめ、大急ぎで垂らした糸を高伸張性のものに作り変え、次々とデュビアに貼り付けたのです。
糸の一端は巣の骨組みに固定され、もう一端はデュビアにくっついています。
糸が緩む(弛緩する)と、伸張時に蓄えたエネルギーを放出し、獲物を持ち上げる揚力が生じます。
この作業を何度も繰り返すことで、デュビアを望みの高さまで引き上げていたのです。
研究主任のガブリエレ・グレコ氏は「この仕組みは滑車の原理によく似ている」と指摘します。
また、ヒメグモは、巣の建造〜捕獲までに5種類もの糸を使い分けていました。
2種類は巣の骨組みとなる糸で、それぞれ異なる腺から作られています。
3種類目は、粘着性の液滴で覆われたトラッピング用の糸、4種類目は、大きな獲物を縛って固定するため糸、そして、5種類目は、これらの糸を互いにつなぎ合わせるセメントのような糸でした。
すべての糸には、共通して優れたエネルギー分散力が見られています。
具体的には、糸にかかった獲物がもがくほど、そのエネルギーは吸収され、四方に広がる網の目を通して分散されます。獲物が暴れても逃げられないのはこのためです。
グレコ氏は「ヒメグモの巣の構造が理解されたのは初めてであり、今後はそれぞれの糸の詳しい機能について調べていく予定です」と話しました。
参考文献
Spiders hoist big prey with silk ‘pulleys’ — and now scientists know how
VIDEO CAPTURES THE CUNNING WAY SPIDERS CATCH MASSIVE PREY
元論文
How spiders hunt heavy prey: the tangle web as a pulley and spider’s lifting mechanics observed and quantified in the laboratory
提供元・ナゾロジー
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