スプーン一杯分の土の中には、地球上の人間よりも多くの微生物が存在しています。
それら微生物の研究を行うためには、野外からいくらか土のサンプルを採取して実験室で調査しなければいけません。
しかし実験室のサンプルだけでは、本当の自然環境における微生物の働きを知ることができません。
そこで、スウェーデン・ルンド大学(Lund University)生物学部に所属するエディス・ハンマー氏ら研究チームは、マイクロチップを含んだ「サイボーグ土壌」を開発しました。
自然界の土壌に混入させたチップにより、本来の微生物活動が記録できるようになったのです。
研究の詳細は、7月20日付の科学誌『Communications Biology』に掲載されました。
目次
自然と人工物の混合「サイボーグ土壌」
微生物たちは「真菌の高速道路」で移動していた
自然と人工物の混合「サイボーグ土壌」

開発されたサイボーグ土壌は、半分が本物の土、もう半分はマイクロチップで構成されています。
このチップは自然界の土壌の細孔構造を模して設計されているため、本物と同様に「微生物たちの都市」として働きます。
つまり本来の土壌では微生物が様々な場所に住み着いたり、橋のような移動経路を作って移動したりしていますが、サイボーグ土壌でも同様の活動が見られるのです。
しかも地中のミクロ世界では、私たちの住むマクロの世界とは物理法則の影響力が異なります。
例えば、ある場所に留まっていた細菌は水分子の働きで押されて移動させられることがあります。
また小さな気泡が、周囲の水の表面張力によって、微生物では乗り越えられない障壁となることもあります。
つまりサイボーグ土壌から得られる記録を解析することで、自然界特有の微生物活動を把握できるのです。
そして実際にチームは、サイボーグ土壌を自然の土と充分な期間馴染ませることで、マイクロチップにも「微生物によって作られる都市」を確認しました。
微生物たちは「真菌の高速道路」で移動していた

サイボーグ土壌による微生物観察の結果、マイクロチップにも自然界の土壌に存在する単細胞生物、線虫、小型節足動物、細菌など多様な生態系が見られました。
また植物の根のように地下に伸びる真菌の菌糸は、サイボーグ土壌の孔の奥深くにまで到達しており、本物の土壌とマイクロチップをつなぐ「高速道路」のような働きをしていました。
実際、細菌が「真菌の高速道路」をたどって新しい孔へと移動する様子が観察されています。
また細菌だけでなく、菌糸の周りに生息する原生生物も「真菌の高速道路」で移動すると判明。
これは今までに全く知られていない現象でした。

さらにチームはマイクロチップの数千の孔と数百の移動経路を調査することで、どれほど頻繁に微生物が移動しているか把握することに成功。
これにより、菌糸が多種多様な微生物を分散させることや、エサを探す際に役立っていることが分かりました。
また土壌微生物の生息環境を形成するのは、雨や水などの物理的な力だけではないことも判明。
例えば菌類は菌糸の先端を使って、通路を開いたり塞いだりしていました。
さらに繊毛虫のような他の生物も、エサを探すために土壌を掘って整地していたとのこと。
ハンマー氏は、今回の研究が「自然界の現地調査と実験室での研究を結びつける」ことに役立つと考えています。
また将来的には微生物に対する理解が、「私たちの認識」を変化させることを期待しています。
絶滅危惧種に認定されている大きな動物と同じように、土壌も微生物も大切で保護すべき対象として見てほしいのです。
参考文献
‘Cyborg soil’ reveals the secret microbial metropolis beneath our feet
元論文
Microfluidic chips provide visual access to in situ soil ecology
提供元・ナゾロジー
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