愛情は摩擦で伝えるようです。

日本の近畿大学で行われた研究により、以前からイルカでみられていた相手の体をヒレで擦る行為に、古くなった皮膚を剥く「お手入れ」効果があることが判明しました。

仲間の体に触れて表面をお手入れする「毛づくろい」はサルやマウスなど陸棲動物では知られていましたが、海棲哺乳類であるイルカたちにも、類似の行為が存在するようです。

研究内容の詳細は2022年6月29日に『Journal of Ethology』にて掲載されています。

イルカの世界で愛情は「摩擦」で伝えると判明!

毛はないけど毛づくろい! イルカが胸ヒレで仲間をこする理由が判明!
(画像=イルカの世界で愛情は「摩擦」で伝えると判明! / Credit:MAI SAKAI . FLIPPER RUBBING BEHAVIORS IN WILDBOTTLENOSE DOLPHINS (TURSIOPS ADUNCUS) . 2006 . MARINE MAMMAL SCIENCE、『ナゾロジー』より引用)

仲間の体の「お手入れ」をする毛づくろいは、サルやマウスなど陸上で生活する幅広い動物にみられる行為です。

毛づくろいには体毛に潜むノミなどの寄生虫を排除するだけでなく、体の表面を綺麗にする効果があり、実利の与え合いを通して社会的な関係を構築する手段となっています。

サルやマウスにとって「毛皮」は手放しようのない財産であり、実利の授受が行われる現場でもあるのです。

一方、毛皮のないイルカにおいても以前から、胸ヒレで相手の体を擦る「ラビング」と呼ばれる行為が行われていることが知られており、これも社会的な絆に関連した行為であると考えられていました。

しかしこれまでの研究では、イルカたちのラビングに毛づくろいのような「実利」が存在するかは確かめられていませんでした。

そこで今回、近畿大学の研究者たちは、飼育下にある3組の親子を観察し、806回のラビング(他人からの摩擦)と276回の壁などに体を自分で擦り付ける自己摩擦において、何が起きているかを確認することにしました。

結果、ラビングの19.2%と自己摩擦の54%において、擦られた体の部分から古くなって死んだ皮膚が剥がれ落ちていることが確認できました。

またラビングを頻繁に受けているイルカは自己摩擦をする回数が低く、自己摩擦を頻繁に行っているイルカはラビングを受ける回数が少なくなる負の相関関係が確認されました。

この結果は、ラビングには社会的な絆を維持するだけでなく、体の表面を綺麗にする衛生的な「実利」があることを示します。

さらにラビングの行われるパターンを分析したところ、母親から子供に対するラビング回数が、子供から母親へのラビング回数に比べて多いことが判明します。

毛はないけど毛づくろい! イルカが胸ヒレで仲間をこする理由が判明!
(画像=バンドウイルカの母子 / Credit:大学プレスセンター,イルカが胸びれで相手をこする行動に体表面をケアする機能 社会的・衛生的な機能をあわせ持つ社会行動であることが明らかに、『ナゾロジー』より引用)

追加の調査では、母イルカと子イルカのペアを母イルカと他人のペアに置き換えた場合、母親は子供ほど他人をラビングしない傾向も確認されました。

このことはラビングが、母親にとって子育てのために重要な行為であることを示します。

研究者たちは今後、ラビングの頻度を観察することで、母イルカが子供にかける世話の労力を測定する手段になると述べています。


参考文献

イルカが胸びれで相手をこする行動に体表面をケアする機能 社会的・衛生的な機能をあわせ持つ社会行動であることが明らかに

元論文

Observations of flipper rubbing in mother–calf pairs of captive bottlenose dolphins (Tursiops truncatus) suggest a body-surface care function


提供元・ナゾロジー

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