1833年、南極で初めて木の化石が見つかりました。それ以来、いくつかの調査によって、南極の氷の下には「化石化した森」が広がっていると分かっています。
そして最近、オーストラリア・メルボルン大学地球科学部に所属するAnne-Marie P.Tosolini氏ら研究チームは、南極大陸の化石調査により、かつて生育していた植物の多様性を明らかにしました。
これにより当時の気温や天候、植物の種の移動を詳しく知ることができたのです。
研究の詳細は、2月付けの科学誌『Review of Palaeobotany and Palynology』に掲載されました。
目次
南極の氷の下にある「化石化した森」を調査する
「化石化した森」と「他の大陸の森林」には共通点があった!南極は植物の中継地点だった!?
南極の氷の下にある「化石化した森」を調査する
これまでの調査によって、南極の氷の下には、木や葉の化石がたくさん存在していると分かっています。
どうして極寒の地である南極に森林の形跡があるのでしょうか?
科学者たちによると、この森林は過去に存在していたゴンドワナ大陸の名残だと考えられています。

プレートテクトニクスによると、現在のアフリカ、南米、南極、インド、オーストラリアはもともと同じゴンドワナ大陸でした。
ところがゴンドワナ大陸は約2億年前から徐々に分裂し始め、最終的に現在のような状態になったとのこと。
つまり南極の氷の下には、当時の森林が化石となって保存されているのです。
そのためそれらの化石を調査するなら、当時の状況や気候を知ることができます。

また始新世と暁新世の境界(5500万年前)では突発的な地球温暖化が起きており、当時の状況を探ることは、将来の地球温暖化の考察に繋がります。
ところが南極の化石化した森は、1901年に南極探検隊が調査して以来、ほとんど研究されていませんでした。
そのためTosolini氏ら研究チームは新たに調査し、論文によって南極の古代森林の生態を解明しようとしたのです。
「化石化した森」と「他の大陸の森林」には共通点があった!南極は植物の中継地点だった!?
研究チームが発表した論文では、シーモア島(南極半島の東側)で採取したさまざまな葉の化石について説明されました。

これら葉の化石の存在は、暁新世後期(約5800万年前から5600万年前)に高緯度地域に広大な森林が生育していた証拠だと言えます。
そして今回調査された葉の化石は、従来の調査結果とは対照的に、多様性に富んでいました。
針葉樹や広葉樹、常緑樹、落葉樹が混在していたのです。これはこの地域が冷温帯から暖温帯だったことを表しています。
現在、南極の化石化した森ともっとも近い特徴を持っているのが南米パタゴニア南部の森林であり、当時の状況を知る助けとなります。
また現在のオーストラリア特有の植物の多く(ユーカリなど)は、暁新世後期の南米で生育していたと分かっています。
つまり、南米、南極、オーストラリアにはそれぞれ植物生態系の共通点があるのです。これらはゴンドワナ大陸時代の名残だと考えられるでしょう。

これらの分析結果から、研究チームは、暁新世に南極大陸を介して多くの種の交換や移動が行われていたと主張。
古代の南極が南米とオーストラリアの植物中継地点として機能していたと判明したのです。
今後研究チームは更なる調査と分析によって、過去の気候・生態系をモデル化し、将来の気候予測に役立てる予定です。
参考文献
Fossil forests under Antarctic ice
元論文
Paleocene high-latitude leaf flora of Antarctica Part 1: entire-margined angiosperms
提供元・ナゾロジー
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