火力維持とカーボンニュートラルの難しいジレンマ

それでは今後どうすれば良いのか。残念ながら、現在の容量市場では火力発電所の新設は極めて難しいと見られている。また、長期電源市場も落札電源は大型蓄電池が多くを占めるのではないかと見られており、火力電源の新設には結びつかない。

また、金融機関の火力発電所新設に対する融資姿勢は、昨今の脱炭素の潮流もあり大変後ろ向きである。既設の火力発電所も、石油機やLNGコンベンショナル機、初期のコンバインドサイクル機は老朽化が進んでおり、近い将来の休廃止が見込まれる。これから起きるであろう火力発電所の休廃止増大は、安定供給がますます不安定になる可能性を示唆している。

他方で、日本が現在も維持している「2050年カーボンニュートラル目標」を実現するためには、火力発電所を最終的にゼロ、若しくはゼロエミッション化する必要性がある。非常に難しいジレンマに直面していると言えよう。

エネルギー自給率の乏しい日本が今後とるべき対策とは

私は、これら課題を解決していくためにも、S+3Eを大前提に、2050年カーボンニュートラル目標に向けたマイルストーンごとのエネルギーミックス策定、およびベストミックスの実現が重要であると考える。

地域間連系線の増強、蓄電池の導入拡大、再生可能エネルギー(特に風力)の導入拡大、原子力発電所再稼働、火力発電所の新設といった手法が考えられるが、いずれの電源も経済性・環境面・安定供給のいずれかの課題が存在する。「眠っているゼロエミッション電源の活用」の観点では、原子力発電所の再稼働も重要であるが、火力発電所の新設/リプレイスも極めて肝要である。

今回の需給ひっ迫では「太陽光発電所は役に立たなかった」「原子力発電所再稼働のための陰謀だ」などといった極端な言説が見受けられた。残念ながら、太陽光発電所がなかった場合には更なる火力発電所が必要になっていたし、今回の事態および3月22日の需給ひっ迫はベース電源が不足しているとも指摘することができ、原子力発電所の重要性を再確認できたものと理解している。

日本は発電用燃料を輸入に頼る島国であり、エネルギー自給率に乏しいことを認識しなくてはならない。各々の嗜好はさておきにして、あらゆる手段を動員し、国民の理解を得つつ、S+3Eを大前提にしたエネルギーベストミックスの実現、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを加速していく必要があると考える。

注1)6月下旬に公表された最新版の見通しで供給力不足は解消されたが、依然として厳しい水準となっている

文・松尾 豪/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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