屋内外でよく見かけるヤモリは、害虫を食べてくれるため、古くから「家の守り神」として日本人に親しまれてきました。

日本に生息するヤモリは夜行性であり、夜間に活発になり、夜目が非常にききます。

そしてこのほど、京都大、岡山大の研究グループにより、夜行性ヤモリが暗がりで色を識別できる生物学的メカニズムが解明されました。

ヤモリは、本来なら明るい場所で働く視物質を、暗がりで利用できるよう適切な形に変えていたようです。

研究は、10月1日付けで学術誌『Science Advances』に掲載されています。

目次
色を見分けるための「眼の仕組み」とは?

色を見分けるための「眼の仕組み」とは?

私たちヒトを含む脊椎動物の多くは、モノを見る際に、色の違いを識別できます。

色を識別するには、眼の中にある複数種の光受容細胞によって、それぞれ異なる波長の光に反応できなければなりません。

光受容細胞とは、眼の網膜にある視細胞で、「桿体(かんたい)」と「錐体(すいたい)」の2つがあります。

桿体は暗がりでの視覚を、錐体は明るい場所での視覚を担います。

私たちは明るい所で色を識別できますが、暗所では見分けられません。

ヒトは3種類の錐体を持っており、それらの中で、赤・青・緑の光をよく吸収する光センサータンパク質(錐体視物質)が働いています。

一方、桿体は1種類しかなく、その中では、錐体視物質とは少し性質の違う光センサータンパク質 (ロドプシン)が働いています。

これにより、ヒトは明所では色を識別できますが(赤・青・緑の三色型色覚)、暗所では色が見分けられません。

こうした仕組みは、ヒト以外の脊椎動物の多くにも見られます。

夜行性ヤモリが「暗闇でも色が見分けられる」メカニズムを解明
(画像=ヒトと夜行性ヤモリにおける光受容細胞・光受容タンパク質の違い / Credit: 京都大・岡山大 – 家の守り神「ヤモリ」が夜でも色を見分けられるのはなぜ −ヤモリが持つ特殊な色覚能力の分子メカニズムを解明−(2021),『ナゾロジー』より 引用)

ところが、夜行性ヤモリでは、錐体がなく、暗所でのみ働く桿体が3種類あります。

そして重要なことに、ヤモリは進化の中でロドプシンを失っているため、桿体では、赤・緑・紫の光をよく吸収する錐体視物質が働いているのです。

つまり、夜行性ヤモリは3種の桿体を使って、暗所での色識別をしていると考えられています。

しかし、これまでの研究で、「錐体視物質は明所で働く」「ロドプシンは暗所で働く」というように、それぞれの性質が異なることが指摘されています。

そこで、夜行性ヤモリは、本来なら明所で働く錐体視物質を、暗所での視覚に利用できるよう変化させているのではないか、という仮説が成り立つのです。

研究チームは、その仮説を検証するべく、夜行性ヤモリの桿体で働く錐体視物質を調べました。