天体観測をするとき、いつも私たちは心の片隅で、異星文明との出会いを期待しています。
そしてそれは、向こうも同じかもしれません。
米コーネル大学とアメリカ自然史博物館(AMNH)の研究チームは、地球が太陽を横切るトランジット観測で、地球を発見することが可能な326光年以内にある星系をシミュレーションにより特定しました。
それによると、人類文明が始まった約5000年前から現在に至るまでの間に、地球を発見できた可能性のある星系は1725あり、今後5000年の間では、さらに319の星系が追加されるそうです。
これらの星系は、地球に生命がいるか確認するための特等席に座っています。
研究の詳細は、6月23日付で科学雑誌『Nature』に掲載されています。
目次
私たちが彼らを探しているとき、彼らも私たちを探している
地球を発見できる異星文明
私たちが彼らを探しているとき、彼らも私たちを探している
「太陽系外惑星から見れば、私たちこそエイリアンです」
コーネル大学の天文学者リサ・カルテネッガー(Lisa Kaltenegger)教授は、そのように語ります。
カルテネッガー教授は、太陽系外惑星の探索や宇宙生命の調査を専門とする研究者です。
しかし、今回彼女は、自分たちが使う観測方法によって地球を発見するのに有利な星がどれだけあるのか? ということを考えました。
系外惑星を探す場合、もっとも一般的な方法はトランジット法と呼ばれるものです。
これはその惑星が属する星系の主星と交差した際に起きる「食」を利用した観測方法です。
惑星は自身の力で光り輝くことはないため、遠い宇宙から見つけ出すことは困難です。
そのため、太陽のような主星の前を惑星が通り過ぎた際に起きる、恒星の減光を利用して見つけ出すのです。
他の星系からこの方法で地球を探そうとした場合は、地球が太陽の前を通過することで、太陽の光が暗くなるのを見る必要があります。
しかし、宇宙の星星はダイナミックに動き回っているため、この観測はどこからでもできるというわけではありません。
星の位置によって、この観測は可能になったり不可能になったりしているのです。
カルテネッガー教授のチームは、欧州宇宙機関(ESA)の位置天文衛星「ガイア」が調査した、あらゆる天体の位置に関する測定データ「Gaia eDR3」を利用して、どの星が地球のトランジット法観測を可能にするかを調べました。
このガイアの観測は、天の川銀河の正確な地図を提供するとともに、時間をさかのぼって星がどの位置にいたか、どっちに向かって移動しているかまで知ることができます。
こうして、人類文明が誕生してからこれまでの5000年間と、今後5000年間の計1万年の期間で地球を発見できる星系を明らかにしたのです。
地球を発見できる異星文明
こうした調査によって、1万年間に地球をトランジット法観測できる星系は2,034個あることがわかりました。
このうち、太陽から100光年以内にある星系は117個で、さらにそのうちの75個の星系は、地球で商業ラジオ放送が始まった約100年前から、地球トランジットゾーンに存在しています。
つまり、これら75の星系では、地球の存在を発見して、地球のラジオ放送が宇宙にもらしたわずかな電波を受信できている可能性があるのです。
また、トランジット法では、光を遮った惑星の持つ大気の組成などを分析することができます。
もし、私たちと同レベルの文明が、こうした星系にあった場合、太陽光のスペクトル分析で、地球大気中にある生命体の化学的痕跡を発見することも可能だと考えられます。
今回分析された地球を発見できそうな星系をいくつか紹介していきましょう。
1つはおとめ座にある赤色矮星を母性とする「ロス128星系(Ross 128 system)」です。
赤色矮星を母性としたこのロス128は、地球から約11光年という距離にあり、地球の約1.8倍という非常に地球に近いサイズの惑星が存在します。
この太陽系外惑星からは、約3057年前から2158年間にわたって地球が太陽を横切る様子が観測できたとわかりました。
ただ、約900年前から地球のトランジット法観測が可能な位置からはずれてしまっていて、現在は地球を観測することができません。
距離が非常に近いことから、地球よりもすこし早熟な文明がこの星系にあったなら、地球生命の存在に気づいていた可能性があるでしょう。
地球から約45光年の距離にあるのは、トラピスト1星系(Trappist-1 system)です。
この整形には地球サイズの惑星が7つあり、うち4つは温暖なハピタブルゾーン(生命居住可能領域)にあります。
現在、この星系から地球をトランジット法観測することはできませんが、1642年後から2371年間地球を観測するのに最良の位置に移動するとわかっています。
カルテネッガー教授は、今回の分析から、「私たちにもっとも近い惑星でも、1つの星系が地球を観測するために有利な位置にいる期間は1000年程度だった」と述べています。
逆に言うなら、異星文明が地球を興味深い惑星だと認識できる制限時間は、1000年程度の間ということになるでしょう。
今後、地球ではジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって、トランジット法観測から、大気の特徴を明らかにし、最終的にその星の生命の痕跡を調査できるようになるといいます。
また、「ブレイクスル・スターショット(Breakthrough Starshot)」という、レーザー照射で推進する切手サイズの小型宇宙船、数千個をケンタウルス座α星に送り込むというプロジェクトも進行中です。
もし、私たちの惑星を発見する文明があった場合、似たようなことを計画しているかもしれません。
この研究は、私たちが宇宙の隣人を探しているとき、彼らもまた私たちを見つけることができるかもしれない可能性を示す、興味深い思考実験なのです。
参考文献
Alien Life in These Star-Systems Could Have Spotted Earth After Human Civilization Blossomed(scitechdaily)
元論文
Past, present and future stars that can see Earth as a transiting exoplanet
提供元・ナゾロジー
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