ビールは昔から多くの人々に愛されてきました。
特にドイツはビールの本場として知られており、その愛情の深さはかなりのものです。
そして最近、ドイツ・ミュンヘン工科大学(TUM)に所属する分析化学者フィリップ・シュミット・コップリン氏ら研究チームは、467種類のビールを高度な質量分析技術により解析。
これにより発見された数万の分子は、化学データベースに記載されていない「未知の分子」でした。
研究の詳細は、7月20日付の科学誌『Frontiers in Chemistry』に掲載されています。
目次
高度な質量分析技術により467種類のビールを分析
ビールから数万種類の「未知の分子」が発見される
高度な質量分析技術により467種類のビールを分析
ビールの主な原料は、水、麦芽、ホップ、酵母の4つです。
しかし麦芽やホップ、酵母には数多くの種類が存在するため、その組み合わせによって生まれるビールの特徴は大きく異なります。
また風味や味わいを調整するための副原料(トウモロコシ、米、カラメルなど)が用いられることもあり、ビールの種類はさらに広がっていきます。
加えて発酵の仕方によっても種類が枝分かれするため、ビールの世界は本当に奥深いものだと言えるでしょう。
そしてこれらのビールを化学的に分析すると、その複雑さが一層際立ちます。
実際、シュミット・コップリン氏は、「ビールは非常に複雑な化学物質の一例です」と述べました。
今回研究チームは、「直接注入フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(DI-FTICR MS)」と「超高性能液体クロマトグラフィー四重極飛行時間型質量分析(UPLC-ToF-MS)」という2つの強力な質量分析技術を利用してビールを化学的に分析しています。
これによってアメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、東アジアで醸造された467種類のビールを分子レベルで解明したのです。
ビールから数万種類の「未知の分子」が発見される
分析の結果、ビールから脂質、ペプチド、ヌクレオチド、フェノール類、有機酸、リン酸、炭水化物など、固有の質量と化学式をもつ約7700個のイオンが見つかりました。
しかもそのうち約80%は化学データベースに記載されていない未知のものだったのです。
そして1つの化合物には、最大25種もの分子構造の並び替えが含まれている場合があったそう。
つまり「数万種類の未知の分子を発見した」とも言えるのです。
研究チームも、「この研究では、数万種類のユニークな分子を含む、ビール全体の膨大な化学的多様性が明らかになりました」と述べています。
さらに、「分子の多様性は原料、加工、発酵に由来する」と付け加えており、アミノ酸と糖による「メイラード反応」によっても増幅されるとのこと。
このメイラード反応とは、肉を焼いたときの褐変やトーストやごはんのお焦げを形成するものであり、ビールの色や風味にも影響を与えます。
つまりビールの色や風味の違いは、これまで詳しく知られていなかった多種多様な分子によって生じていたのです。
今回の研究は、ビールの奥深さを明らかにするとともに、食品における「分子の複雑な反応の重要性」に焦点を当てるものとなりました。
今晩、食事とビールを楽しむのであれば、その背後にある膨大で複雑な分子を意識しながら味わってみてはいかがでしょうか。
参考文献
Scientists Detect Tens of Thousands of Different Molecules in Beer – 80% Not Yet Described in Chemical Databases
元論文
On the Trail of the German Purity Law: Distinguishing the Metabolic Signatures of Wheat, Corn and Rice in Beer
提供元・ナゾロジー
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