褐色矮星は、惑星よりも重いけれど、恒星のように激しく核融合を起こして燃え上がるほどには重くない、という中間層の天体です。

この褐色矮星は、理論的に存在が予想されていたものの、実際に初めて発見されたのは1994年になってからです。そのため、実は多くの謎に包まれた天体です。

そんな中、NASAのスピッツァー宇宙望遠鏡のデータを使った新しい研究が、もっとも速く回転する褐色矮星は、存在する位置も質量も年齢もまるで異なるにもかかわらず、ほぼ同じ速度で回転しているのを発見したと報告したのです。

研究チームは、これが偶然の速度の一致ではなく、褐色矮星がある制限速度を超えて回転するとバラバラに崩壊してしまう可能性があるという考えを述べています。

この研究に関する論文は、科学雑誌『The Astronomical Journal』への掲載が決まっています。

目次
自転速度がもっとも速い褐色矮星は、なぜかみんな同じ速度になる
自転の制限速度が意味するもの

自転速度がもっとも速い褐色矮星は、なぜかみんな同じ速度になる

褐色矮星は、質量が足りないために核融合の発火にまで至れなかった「失敗した星」です。

目に見えるような光はほとんど放つことはなく、赤外線波長で輝いています。

このため、60年代から存在は予想されていたものの、赤外線観測の技術が未熟な時代には見つけ出すことができず、初めて発見が報告されたのは1994年になってからです。

褐色矮星は宇宙にありふれた天体であり、天の川銀河だけでも数十億以上が存在していると考えられていますが、実際その内容については多くの謎が残っているのです。

今回の研究チームは、2020年1月に運用が終了したNASAのスピッツァー宇宙望遠鏡の全天観測(2MASS)データを使用して、褐色矮星の研究を行っていました。

彼らが調べていたのは、褐色矮星の回転速度です。

フィギアスケートの選手が回転するとき、腕を体の内側に引き込んでいくと回転速度も上がっていきますが、同じ原理で形成された星は冷えて収縮すると回転が速くなります。

研究チームは約80個の褐色矮星の回転速度を測定しましたが、それは非常に多様で、1回転するまでに2時間未満のものもあれば、数十時間掛かるものもありました。

ところが、この中から最高速度で回る3つの褐色矮星を特定したところ、それらはほぼ同じ1時間で1回転という自転速度を持っていたのです。

これらの褐色矮星は、木星とほぼ同サイズでしたが、質量は40~70倍あります。

木星は10時間で1回転するため、このサイズに基づいて計算すると、もっとも早く回転している褐色矮星は、時速約36万キロメートル(約秒速100キロメートル)で回転していることになります。

「1日が1時間」最速の自転速度をもつ褐色矮星は、なぜかみんな同じ速度になっていた
(画像=3つの褐色矮星は木製とほぼ同サイズだが、質量は40~70倍あった。 / Credit:NASA / JPL-Caltech、『ナゾロジー』より引用)

通常、一緒に形成された星であったり、同じ発達段階である星の場合なら、こうした回転速度の一致も頷けます。

しかし、この3つの褐色矮星は、温度も質量もまるで異なっていました。

褐色矮星は年を取るほど冷えていきます。温度が異なるということは、年齢がまるでバラバラであることを意味しています。

研究チームは、この揃った最高速度の謎について、褐色矮星には回転速度の限界が存在しており、この3つはその限界速度に達しているのではないかと考えています。

そして、この1時間1回転という速度限界を超えたとき、褐色矮星はバラバラに崩壊する可能性があるというのです。

自転の制限速度が意味するもの

すべての回転する物体には向心力が発生します。

メリーゴーランドが飛んでもない高速回転をしたら、木馬に乗っている人たちは、みんな外に吹き飛ばされてしまいます。(向心力と遠心力は本質的に同じ力です。遠心力とは向心力に対する見かけ上の力を指します)

木星や土星は約10時間で1回転していますが、こうした効果によって中央部分が膨らんだ状態になっています。これをオブレーション(oblation)といいます。

研究者によると、今回確認された3つの最高速度で回転する褐色矮星は、みな同程度のオブレーションが確認できるといいます。

「1日が1時間」最速の自転速度をもつ褐色矮星は、なぜかみんな同じ速度になっていた
(画像=回転する物体には向心力が働き、球よりも上下が潰れて中央が膨らんだ状態が生まれる。これが拡大すると星は崩壊する可能性がある。 / Credits: NASA/JPL-Caltech、『ナゾロジー』より引用)

これは、このまま回転が速まっていった場合、星の崩壊に繋がる可能性があります。

しかし、先程フィギアスケートを例に解説した、冷えて収縮した星は回転速度が上がるという問題を考えると、疑問が浮かんできます。

褐色矮星は年を取るほど冷えていくため、自転速度も上昇する傾向があるのです。

ということは、褐色矮星は最終的に、可能な自転速度の限界を超えて引き裂かれて崩壊してしまうのでしょうか?

通常、他の回転する天体では、自身の崩壊するような回転速度を自然に制限するブレーキ機構が存在しています。褐色矮星もそのようなメカニズムを持っている可能性があります。

「褐色矮星が速く回転しすぎたために、その大気を宇宙へ放出しているところを発見できたなら、かなり壮観でしょう。しかし、これまでのところ、そのようなものは見つかっていません。

これは褐色矮星が極端な速度に達する前に、何らかの原因で減速しているか、そもそもそこまで速く回転できないことを意味していると思われます。

私たちの研究の結果は、褐色矮星の回転速度に何らかの制限が存在することを裏付けています。ただ、その理由はまだわかりません」

今回の研究筆頭著者であるカナダのウェスタンオンタリオ大学のメーガン・タノック博士は、その様に述べています。

物体の最大自転速度は、その総質量以外に、その質量がどの様に分布しているかによって決定されます。

そのため、自転の制限速度の理由を考える場合、褐色矮星の内部構造を理解することが非常に重要となります。

「1日が1時間」最速の自転速度をもつ褐色矮星は、なぜかみんな同じ速度になっていた
(画像=褐色矮星はほとんどの惑星より重いが、恒星ほどではない。 / Credits: NASA/JPL-Caltech、『ナゾロジー』より引用)

褐色矮星は、木星や土星などの巨大ガス惑星と同様に、主に水素とヘリウムで構成されています。

しかし、褐色矮星の核となる水素は、巨大ガス惑星よりもはるかに大きな圧力によって高密度に圧縮され、金属のように振る舞っています。

この状態は銅のように電導性を高め、熱の伝達方法にも変化を与え、高速回転する物体内での質量分布にも影響を与えます。

「この状態の水素は、現代の知識をもってしても非常に謎めいたものです。最先端の降圧物理学研究所でさえ、この状態を再現することは非常に困難なのです」

研究の共著者であるウェスタンオンタリオ大学のスタニミル・メッチェフ氏はそのように説明しています。

物理学者は、観測や実験データ、数学的解析を利用して、褐色矮星の内部がどの様になっているかモデル化しようとしています。

しかし、現在のモデルでは、褐色矮星の最大回転速度は、今回の研究で確認された1時間に1回転という速度より、約1.5から1.8倍速く回転できることが示唆されています。

「これは、褐色矮星に関する理論が、まだこの星の全体像を把握できていない可能性を示している」とメッチェフ氏は述べています。

褐色矮星には、何らかの自己破壊を防ぐためのブレーキが存在しているかもしれません。しかし、もしかしたら見えない暗闇の中で、褐色矮星がさらに速く回転している可能性もあります。

それは今後の研究に引き継がれる問題となるようです。


参考文献

Trio of Fast-Spinning Brown Dwarfs May Reveal a Rotational Speed Limit(NASA)

元論文

Weather on Other Worlds. V. The Three Most Rapidly Rotating Ultra-Cool Dwarfs(arXiv)


提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功