英ロンドンにあるキュー王立植物園(Kew Gardens)で、世界最大となる巨大スイレンの新種が発見されました。
この新種スイレンは、イギリスのヴィクトリア女王(1819〜1901)に由来するスイレン科のオオオニバス(Victoria)属に分類され、これまで知られているのはわずか2種のみです。
そのためオオオニバス属の新種発見は、19世紀半ば以来の快挙ですが、今回の発見の驚くべき点はこの新種の乾燥標本が1845年から約177年もの間、ずっと植物園の標本室にも保管されていたことです。
新種の標本がずっと植物園にあったのに、誰も気づいていなかったとは、まさに灯台下暗しです。
研究の詳細は、2022年7月4日付で科学雑誌『Frontiers in Plant Science』に掲載されています。
すぐ側にあったのに、177年間「新種」と気づかず
オオオニバス属は、ヴィクトリア朝(1837〜1901)に本格的な種分類や命名が進められましたが、現在にいたるまで、「オオオニバス(V. amazonica)」と「パラグアイオニバス(V. cruziana)」の2種しか知られていません。
野生では、いずれも南米のアマゾン川流域に自生しています。
しかし、キュー王立植物園の植物学者であるカルロス・マグダレナ(Carlos Magdalena)氏は長年、「第3種目が存在するのではないか」と考えており、独自に調査を進めていました。
2016年には、オオオニバス属を栽培しているボリビアの植物園から、未記載種の可能があるオオオニバスの種子を寄贈してもらい、キュー王立植物園にて生育を開始。
他の既存の2種と並べて成長する姿を観察したところ、特徴がどちらとも違うことに気づきました。
そこで、このオオオニバスをDNA分析した結果、他の2種とは異なる未記載種であることが判明したのです。
マグダレナ氏と研究チームは、協力してくれたボリビアの専門家に感謝の意を表し、新種の学名を「ヴィクトリア・ボリビアーナ(Victoria boliviana)」と命名しました。
また、DNAデータによると、新種はパラグアイオニバス(V. cruziana)と遺伝的に近く、両者は約100万年前に分岐したことが示唆されています。
今回、新種と判明したV. ボリビアーナは、ボリビアのアマゾン地域「リャノス・デ・モホス (LLanos de Moxos)」という水生生態系に自生することがわかっています。
最大記録は、ボリビアのラ・リンコナダ庭園で生育されている葉の直径3.2メートルのもので、これはオオオニバス属の中でも最大です。
さらにこの新種、実は今回はじめて見つかったわけではなく、キュー王立植物園で約177年間、ボリビア国立植物標本室に34年間、乾燥標本が保管されていたことが判明しました。
しかし専門家らは、現在にいたるまで、既知の2種のどちらかだろうと考え、新種とは思ってもいなかったのです。
マグダレナ氏は、今回の発見について、「20年近いキャリアの中で最大の成果だ」と話します。
「私は2006年に、この種のオオオニバスの写真をネットで見たときから、新種ではないかと疑っていました。
私たち園芸家は植物を熟知しているので、一目見ただけでも、何かが違うことはすぐにわかるのです」
しかし、オオオニバス属は、研究データが不足していることや、野生での採集が難しいことから、新種の特定までにかなりの時間を要しました。
それでも、本研究の成果について、研究チームは喜びをあらわにしています。
チームの一員で、キュー王立植物園のアレックス・モンロー(Alex Monro)氏は「オオオニバス属の新種を同定できたことは、植物学において非常に貴重な成果だ」と指摘。
「オオオニバス属を保護するためには、その種の多様性を適切に理解し、記録することがきわめて重要なのです」と続けました。
ちなみに、新種を含む3種のオオオニバス属の生育個体がそろって見られるのは、キュー王立植物園のみとのことです。
参考文献
‘One of the botanical wonders of the world’: Giant waterlily grown at Kew Gardens named new to science
Uncovering the giant waterlily: A botanical wonder of the world
元論文
Revised Species Delimitation in the Giant Water Lily Genus Victoria (Nymphaeaceae) Confirms a New Species and Has Implications for Its Conservation
提供元・ナゾロジー
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