ストレスが眠りを促すこともあるようです。

英国のインペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)で行われた研究によって、マウスの脳には社会的敗北(イジメ)のストレスを検知すると睡眠を促し精神を回復させる、特殊なニューロンがあることが発見されました。

これまでストレスは睡眠を妨害するものとばかり考えられていましたが、どうやらその逆もあるようです。

またこの特殊なニューロンが促す眠りには、社会的敗北のストレスを解消させ不安を取り払う効果もあることが示されました。

研究者によれば、同じような仕組みは人間にもある可能性が高い、とのこと。

アニメ「ドラえもん」の主人公のび太が眠りの達人であるのも、もしかしたらジャイアンにイジメられていることが原因かもしれません。

研究内容の詳細は2022年6月30日に『Science』にて掲載されています。

目次
ストレスによって逆に「ぐっすり」睡眠できる仕組みが判明!
マウスの脳細胞を破壊して違いを調べてみた

ストレスによって逆に「ぐっすり」睡眠できる仕組みが判明!

脳は社会的敗北感を睡眠で回復させると判明!
(画像=ストレスを受けた脳は睡眠を促して精神力を回復させていると判明! / Credit:Canva、『ナゾロジー』より引用)

ストレスと睡眠には、古くから不思議な関係にあることが知られていました。

最も知られている例では、ストレスによる睡眠の妨害効果です。

持続的な強いストレスを受け続けた人間やマウスでは不眠症に陥ることが知られています。

しかしストレスと睡眠の関係は複雑であり、同様に慢性的なストレスを受けているマウスでも逆に睡眠が増加するケースも報告されています。

そのため睡眠はストレスによって単に妨害されるだけでなく、睡眠中にストレスに対抗する何らかの適応反応も起きていると予測されていました。

私たちヒトの場合でも、寝て起きるとストレスがサッパリ消えていたという経験をした人もいるでしょう。

しかし睡眠による回復効果が、いったいどんな仕組みで働いているかは長い間、謎に包まれていました。

そこで今回インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者たちは、ストレスを受けたマウスの脳内で何が起きているかを詳細に調べる実験を行いました。

調査にあたってはまず、マウスにストレスを与えるため、強いマウスに弱いマウスをイジメさせ「社会的敗北」を誘発させました。

社会的敗北状態になったマウスでは、人間のうつ病でみられるように、興味や好奇心が失われ、精神的にも不安なストレス状態に陥ります。

次に研究者たちは睡眠中のマウスのニューロンの活動を調べ、ストレスを受けたマウスとストレスを受けていないマウスとの違いを比較しました。

結果、ストレスを受けてた睡眠中のマウスの脳では5時間にわたり、中脳にある特殊なニューロン「VTAVgat-St」が活性化して、レム睡眠(浅い睡眠)とノンレム睡眠(深い睡眠)の両方を誘発していることが判明しました。

またこのニューロンが活性化すると、ストレスホルモンの分泌を制御する別のニューロンに信号が送られ、ストレスホルモンをそれ以上、放出しないように抑制していることが判明しました。

この結果は、新たに特定されたニューロン(VTAVgat-St)には「ストレスを検知」して「睡眠を促進」するとともに「ストレス自体を緩和」する機能があると予測されました。

ただ本当にこのニューロン(VTAVgat-St)がストレスを緩和しているどうかを調べるには、破壊してみなければなりません。

マウスの脳細胞を破壊して違いを調べてみた

脳は社会的敗北感を睡眠で回復させると判明!
(画像=仕組みを利用すれば睡眠によるストレス回復力を高められる薬ができる / Credit:Canva、『ナゾロジー』より引用)

本当に睡眠によってストレスが緩和しているのか?

答えを得るために研究者たちは、新たに同定したニューロン(VTAVgat-St)を破壊した場合、目覚めた後にストレスにどのような影響が出るかが調べられました。

影響の評価には、マウスが明るい場所にいる時間とストレスホルモンのレベルが測定されました。

ストレスを感じているマウスは明るい場所より暗い場所を好む性質があるからです。

すると、新たに同定されたニューロン(VTAVgat-St)を破壊されたマウスたちは、目覚めた後も、暗闇の中で過ごす時間が長く、ストレスホルモンのレベルが高いままであることが判明します。

この結果は、ニューロン(VTAVgat-St)を破壊されたマウスたちは、寝てもストレスから解放されなくなっていることを示します。

これまで睡眠とストレスについては多くの研究がなされてきまたが、ストレスによって睡眠(特にレム睡眠)が誘発される仕組みを細胞レベルで特定できたのは、今回がはじめてです。

研究者たちは、人間とマウスの睡眠は類似しているために、このニューロン(VTAVgat-St)をターゲットとすることで、睡眠のストレス解消力を高める薬が開発できると述べています。


参考文献

Sleep triggered by stress can help mice cope with later anxiety

元論文

A specific circuit in the midbrain detects stress and induces restorative sleep


提供元・ナゾロジー

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