素材と技術に自信あり! 高級店の儲け方
続いて、素材に徹底的にこだわった高級志向のラーメン屋で考えてみましょう。高級地鶏やブランド豚を使い、有名ガイドブックの星を獲得するような名店です。
こちらは、もともと和食やフレンチの料理人だった人が転身して、店主になることも珍しくありません。長年の経験で培った技術と食材の目利きを応用し、大衆店とは一線を画したラーメンを提供します。
それぞれ店によって作るラーメンはまったく違います。共通するのは、使っている素材の産地やブランドを前面に押し出し、高級感を感じさせる1杯になっていることです。トリュフや和牛を使ったラーメンもあります。品質が高いのは商品にとどまらず、内装や器も美しく統一感があり、隙のない店舗になっているパターンが多いです。
トータルで普通のラーメン屋と違うことを明らかにしている店が多いので、値段も高めに設定されています。追加トッピングをしなくても1杯1000円を超えることは珍しくなく、1500円の商品もあります。「1000円の壁」を打ち破る新しい時代のラーメンといえるでしょう。
こちらも、高級素材を使うため、原価率は高くなっていると考えられます。二郎系ではボリュームとコストパフォーマンスで行列を作っていますが、こちらは高級感と品質の高さを集客につなげています。
価格は二郎系より高いため、原価率が同じであっても、1杯あたりの利幅は大きくなります。店によって異なるものの、二郎系よりは来客が少なくても利益を残しやすい設計になっていることが多いでしょう。
まったり町中華が生き残る理由
最後に、どこにでもありそうな町中華について考えてみましょう。こういう店は人気ラーメン屋のような混雑はなく、行列ができることもほぼありません。これまでに検討した種類の店よりも明らかに来客が少なくても、つぶれていない店が身近にもあると思います。
町中華のラーメンは、鶏や煮干を使った懐かしい1杯が多いです。素材もごく普通に手に入るものばかりで、原価率は低く抑えられているはずです。
鶏ガラは安く、豚骨と比べて加工の手間もかかりません。煮込み時間も短く抑えられます。1杯あたりの限界利益は、場合によっては二郎系より多いかもしれません。たまにフラッとこのような町中華に立ち寄ってみると、常連のおじいさんがビールを飲みながらテレビを見ていたりします。
実は、これが町中華の強みであり、店を続けていける大きな理由です。混雑するラーメン屋に行った経験を思い出してください。サイドメニューは少なく、お酒を長時間飲む人もいなかったはずです。混雑が前提の店では、滞在時間を長くするメニューは提供できません。
一方、空いている町中華は、だらだら飲んでもらうことが店にとってメリットです。
逆に考えれば、餃子やチャーハン、ビールを置いていない町中華はないでしょう。
具体的な数字で考えてみます。二郎系は1杯1000円で原価率40%、高級志向店は1杯1500円で原価率40%、町中華は1杯700円で原価率30%に加えて、原価率20%のおつまみと酒を1人2800円分頼むと想定します。
この場合、1人あたりの限界利益(=売上-変動費)は、二郎系が600円、高級志向店は900円、町中華は2730円です。
この前提では、町中華の1人は、二郎系の4人分、高級志向店の3人分以上の価値があることになります。
このように比較すると、行列店が必ず儲かるとは限らないことがよくわかります。
飲食店に限らず、商売は薄利多売を目指すのか、少ない機会に利幅の大きい商品を売るのか、設計はそれぞれ異なります。ラーメン屋の例を、自分のビジネスに生かせるように、考えてみましょう。
著者プロフィール
石動 龍
1979年生まれ。青森県八戸市在住。石動総合会計法務事務所代表。ドラゴンラーメン店主。公認会計士、税理士、司法書士、行政書士。読売新聞社記者などを経て、働きながら独学で司法書士試験、公認会計士試験に合格。2020年10月に地元でドラゴンラーメンを開業し、店主として自ら店にも立つ。ワイン専門店vin+共同オーナー、十和田子ども食堂ボランティアとしても活動している。趣味はブラジリアン柔術(黒帯)と煮干ラーメンの研究。
著書に『公認会計士試験 社会人が独学合格する方法』『司法書士試験 独学で働きながら合格する方法』(ともに中央経済社)がある。
提供元・日本実業出版社
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