蜜を集める働きバチはパートナーなしで子孫を生み出せます。
これは単為生殖と呼ばれる繁殖方法ですが、「遺伝子の組み換え」が行われる場合があり、親とは別の個体が生まれます。
ところが、オーストラリア・シドニー大学(University of Sydney)に所属する生物学者ベンジャミン・オールドロイド氏ら研究チームは、南アフリカに生息するケープミツバチ(学名:Apis mellifera capensis)が単為生殖でほぼ完ぺきなクローンを生み出していたことを発見しました。
研究の詳細は、6月9日付の科学誌『Proceedings of the Royal Society B』に掲載されました。
目次
ミツバチは単為生殖の欠点を抱えている?
南アフリカのケープミツバチは単為生殖でクローンを生み出していた
ミツバチは単為生殖の欠点を抱えている?
これまでの研究により、ミツバチ種は「オスとメスによる有性生殖」と「メスだけの単為生殖」の両方が可能だと分かっています。
そして女王バチだけがオスと有性生殖を行い、働きバチ(すべてメス)は単為生殖を行うようになります。
オスとメスによる有性生殖は、互いの遺伝子を半分ずつ組み合わせるため、多様性を生み出すというメリットがあります。
では単為生殖とは、分裂して自分のクローンを生み出す「無性生殖」のことなのでしょうか?
必ずしもそうではありません。
単為生殖では、「自分の半分の遺伝子」と「自分の半分の遺伝子」を組み合わせた「遺伝子の組み換え」が行われる場合があるからです。
本来であればパートナーと組み合わせるはずの遺伝子を自分の遺伝子と組み合わせてしまうのです。
つまり一部の単為生殖は単なるクローン生成ではなく、「自分と自分の近親交配」なのです。
そのため、パートナー不要で効率的ですが、クローンを生成する無性生殖のデメリットとはまた別の問題(先天性欠損症、生殖不可など)が生じていくのです。
このように単為生殖は子孫を残す方法として不完全であり、ミツバチはこの欠点を抱えていると考えられてきました。
ところが、新しい研究では従来の認識を覆す事実が発覚しました。
南アフリカのケープミツバチは単為生殖でクローンを生み出していた
研究チームによると、南アフリカのケープミツバチは、他のミツバチと同様に、女王バチがオスとメスによる有性生殖を行い、働きバチが単為生殖を行っていたとのこと。
また働きバチの単為生殖では通常オスしか生まれませんが、ケープミツバチに限ってはメスも生まれると分かっています。
そこでチームは、女王バチの生殖器官にテープを貼って、オスとの交尾を禁止しました。
女王バチが働きバチと同じ単為生殖を行うよう誘導したのです。
そして生まれたそれぞれの子供の「遺伝子組み換え率」を調査しました。
その結果、女王バチの子供は働きバチの子供に比べて、約100倍もの遺伝子組み換えが行われていました。
さらに働きバチの子は、親とほぼ同じ遺伝子を持っていると判明。
つまり女王バチの単為生殖は「自分と自分の近親交配」であり、別の個体を生み出すものでしたが、働きバチの単為生殖は無性生殖としてクローンを生み出すものだったのです。
加えて、ある系統の働きバチは、約30年も同じクローンを生み出し続けていたと判明。
これはそのクローンが先天性障害や生殖機能障害などの問題を抱えていないことを示す明確な証拠だと言えます。
このようにケープミツバチの社会では、「女王の子供には多様性」が求められ、「働きバチの子供には、健康が保証されたクローン兵隊」が求められているようです。
今回の研究では、働きバチがそのニーズに応えるかのように、あえて遺伝子を組み替えない単為生殖を行ってきたと分かりました。
メカニズムなど未だ不明な点は多いので、さらなる研究が期待されます。
参考文献
South African worker honeybees reproduce by making near-perfect clones of themselves
元論文
Adaptive, caste-specific changes to recombination rates in a thelytokous honeybee population
提供元・ナゾロジー
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