ユネスコ世界遺産に登録されているポルトガルの「コインブラ旧大聖堂」が危機的状況に陥っています。

なんと聖堂に新種の真菌が繁殖し、壁面が腐食し始めているのです。研究者は現在、遺産保護のため対応に追われているとのこと。研究の詳細は、2019年1月28日付けで「MycoKeys」に発表されています。

目次

  1. ポルトガル民にとって重要な建築物「コインブラ旧大聖堂」
「生命力の強い菌類」が増えすぎて、世界遺産の大聖堂が崩壊の危機
(画像=Credit: João Trovão、『ナゾロジー』より引用)

ポルトガル民にとって重要な建築物「コインブラ旧大聖堂」

問題となっている「コインブラ旧大聖堂」は、8世紀も前に建造された歴史的な遺物。さらに、ポルトガルで唯一現存しているロマネスク様式の建築物でもあります。

この大聖堂が建設されたきっかけは、1139年に当時のポルトガル軍とイスラム王朝の間で勃発した「オーリッケの戦い」。数で圧倒的に劣勢だったポルトガル軍が勝利したことから、国内で伝説化している戦争です。

その戦争後、軍を率いたアフォンソ・エンリケスは初代ポルトガル王アフォンソ1世として即位。その記念に首都と定めたコインブラに大聖堂を建てました。つまり「コインブラ旧大聖堂」は、ポルトガルの国民意識を形成した一因となるほど重要な建築物なのです。

直射日光でも生き残る新種の真菌、一体何者?

しかし現在、その貴重な建築物を、新種の黒色真菌が蝕んでいます。研究者は聖堂にあるサンタ・マリア礼拝堂に付着していた真菌のサンプルを採取し、真菌のDNA配列などを精密に分析。

するとこの真菌は、属や科レベルでも新種であり、さらに厳しい環境に抵抗し得る驚くべき能力を持っていることが判明しました。

その生存能力は、紫外線直射やひどく乾燥した気候、栄養不足にまで耐えられるほど。

また、寒暖差の激しい環境や化学物質の汚染を受けた場所でも生存が可能で、その結果、大聖堂のような太陽光が直接当たるむき出しの壁面上でも繁殖してしまうのです。

新種の真菌は、形態的にも究めて柔軟で、建築物にできたヒビ割れや裂け目に入り込んで枝分かれ式に深く根を張り、腐食の引き金となる多糖体を生み出しています。

こうした特性が、真菌の除去作業を困難にしており、専門家の悩みの種となっています。ただ、調査をおこなったコインブラ大学のジョアン・ペドロ氏によると、繁殖スピードは比較的遅いため、慎重な除去作業が可能であるとのこと。

また、真菌の主な付着場所が、建築物に使用されている石灰岩であることも判明。そこから、真菌の出所をイベリア半島にある石灰岩の採掘場ではないかと特定し、調査を進めています。

しかし、この新種菌への効果的な対処法はいまだ不明。科学者だけでなく歴史遺物保護団体も総出で、解決の糸口を模索中です。

ポルトガル国民にとって重要な意味をもつ世界遺産「コインブラ旧大聖堂」。果たして新種の真菌の正体は何なのでしょうか? 歴史的建築物で新種の真菌が大量発生なんて、何かの陰謀か神秘的なものを感じてしまわないこともないですが、一刻も早く対処法が見つかることを祈ります。

この記事は2019年1月30日に公開されたものを再編集して作成しています。

提供元・ナゾロジー

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