体長15mにもおよぶザトウクジラ。彼らが歌を歌うことはよく知られています。

彼らの歌は通常同じコミュニティー間で共通しており、季節ごとにもっとも出来の良い「ヒット・ソング」もあるとか。これまでは、コミュニティーに共通した歌は、基本的に他の地域に属するクジラたちには意味が通じないものと考えられていました。

しかし、「WCS (Wildlife Conservation Society)」の研究で、ザトウクジラが他地域のコミュニティーに属するクジラの歌のアイデアを自分たちの楽曲に取り入れて、互いに共有する習慣があることが発見されました。研究の詳細は「Royal Society Open Science 」上に掲載されています。

目次

  1. 句や旋律…ザトウクジラの歌の構造

句や旋律…ザトウクジラの歌の構造

WCSの研究チームは、2001年から2005年にかけて、およそ1500ものザトウクジラの歌声サンプルを録音。採取されたのは、アフリカ大陸の西部に位置する「ガボン沿岸」に生息するコミュニティーと東部に位置する「マダガスカル島」周域に生息するコミュニティーの2つのグループの歌です。

ザトウクジラの歌の構造には規則があり、まず唸り声や鳴き声といった一番小さな歌唱の「単位」があります。次に、この「単位」を複数並べて「句」をつくります。そして、「句」を繰り返し歌うことで「旋律」を構築。さらに、「旋律」がいくつか組み合わせられることで最終的な「楽曲」となるのです。

研究チームは、録音した歌声を統計的にまとめて分析し、2つのコミュニティー間でどのように歌が共有されていくのかを調査しました。

翌年に全く別の場所で遠い歌が流行る!?

調査初期である2001年の段階では、2つのコミュニティー間の「句」に5つだけ類似性が見られました。しかし、その後の2004年の記録では、類似する「句」の数が増加し、また興味深いことに、両コミュニティー間で以前確認されていた2つの「句」が同時に無くなっていたのです。そして、2005年には両者の楽曲は、多くの部分で類似性が散見されるようになりました。

この現象について、同研究チームのメリンダ・レクダール氏は「それぞれ異なるテリトリーに生息する雄クジラたちが、繁殖などの目的で頻繁に出会って互いの歌を披露し、アイデアを交換し合っていることを示している」と説明します。

また、レクダール氏は「どのコミュニティー間に歌の類似性が見られるかを調べることで、ザトウクジラの群れの動き方を予測することができる」と指摘しており、移動海域を熟知することでクジラの保護にもつながるのです。

ザトウクジラは、同じ歌を何時間も、ときには数日にわたって歌うほどのビッグ・シンガー。良い歌であれば、反対側の海でも流行するそうです。彼らが歌う理由については、いまだ明確な答えが出ていませんが、もっとも有力な説は、オスが求愛のために歌うということ。クジラたちも最強のモテ・チューンをつくりだすためには、努力を惜しまないようです。

この記事は2019年1月11日に公開されたものを再編集して作成しています。


参考文献

Giant singers from neighboring oceans share song parts over time

元論文

Culturally transmitted song exchange between humpback whales (Megaptera novaeangliae) in the southeast Atlantic and southwest Indian Ocean basins


提供元・ナゾロジー

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