アレルギーとは、通常は人体に無害なアレルゲン(抗原)に対して、体が過剰に免疫応答することで起こる症状です。

主な疾患には、食物アレルギーや花粉症、気管支喘息、アトピー性皮膚炎などがあり、日本人の約半分がなんらかのアレルギーを抱えていると言われています。

しかし、イギリス在住の女性、ナターシャ・コーツ(Natasha Coates)さん(27歳)は、「感情」に対してアレルギー反応を起こすという珍しい病気を患っています。

これは「マスト細胞活性化症候群(mast cell activation syndrome、MCAS)」という難病で、笑ったり、泣いたり、悲しんだりと、強い感情を抱いた際の、体内に過剰な化学反応が生じ、命にかかわるアレルギー反応を起こすのです。

コーツさんは20歳のとき、自らの葬儀を計画したほど、悩み苦しんだといいます。

彼女はどのようにして自分の病気を知り、この難病と付き合っているのでしょうか。

目次
強い感情を抱くだけで、アナフィラキシーショックが起きる
「マスト細胞活性化症候群(MCAS)」とは?

強い感情を抱くだけで、アナフィラキシーショックが起きる

コーツさんは幼少の頃から、頻繁に体調を崩したり、食べ物に異変を感じることがありました。

それでも当時は「自分の体が他人より少し敏感なだけだ」と思っていたといいます。

しかし、18歳の時、大きなイベントに参加した際、突然アナフィラキシーショックを起こし、体が震え、めまいがし、うまく呼吸ができなくなりました。

すぐに病院に運ばれ、大事には至らなかったものの、それから2週間で8回も同じことが起きたのです。

そして、気がつくと、また病院に入院していたといいます。

笑うだけでも命の危険! 強い「感情」にもアレルギー反応が起きる壮絶な難病
(画像=アナフィラキシーショックを起こし入院した際のコーツさん / Credit: Great Big Story – This Gymnast Is Literally Allergic to Everything, Even Exercise(youtube, 2020)、『ナゾロジー』より引用)

友だちとの何気ない夜遊びも、コーツさんにとっては大惨事になる危険性がありました。

数年前、友人たちと夜間まで遊んでいたときのこと。コーツさんは突然、舌と喉が腫れ上がるのを感じ、呼吸不全に陥りました。

友人の一人が救急車を呼び、別の一人がエピペン(アナフィラキシーに対する緊急治療薬)を使って、窒息死を防いだため、最悪の事態は免れています。

しかし、コーツさんが意識を取り戻すと、再び集中治療室の中でした。

この原因は、彼女の過剰なアレルギー反応を起こす体質にあったようです。

「私は強い感情に対してアレルギーがあり、笑ったり、泣いたり、悲しんだり、ストレスを感じたりするだけで、アナフィラキシーショックを起こしてしまうのです」とコーツさんは話します。

驚いたことに、コーツさんは強い感情を抱く、激しい運動をするなどして体内の化学物質のバランスが崩れるだけでアレルギー反応が起きてしまっていたのです。

これにより発作はほぼ毎日起こり、これまでに500回以上の入退院を繰り返しました。

彼女は元々、体操選手として活躍していましたが、その練習にも支障が出るようになったそうです。

そして、今から2年前にようやく、「マスト細胞活性化症候群(MCAS)」と診断されます。

「マスト細胞活性化症候群(MCAS)」とは?

米アレルギー喘息・免疫学会(AAAAI)によると、マスト細胞活性化症候群(MCAS)とは、マスト細胞によるヒスタミンの過剰分泌が原因で起こる病気で、症状としては、突発的なアナフィラキシーショックを伴います。

マスト細胞は、日本では「脂肪細胞」とも訳され、体中の血管周囲、とくに皮膚や皮下組織、肺、消化管、肝臓などに広く存在しています。

マスト細胞は、細菌や寄生虫に対する免疫反応を担っており、細胞表面には、IgE(免疫グロブリン)と呼ばれる、免疫に関与するタンパク質が付着しています。

ここでアレルゲン(抗原)と反応すると、主にヒスタミンなどの化学伝達物質を放出し、アレルギー反応を引き起こすのです。

ヒスタミンは、アレルギー反応の原因物質としてよく知られ、これが働きすぎると、目や皮膚のかゆみ、鼻水が止まらないなどの症状を引き起こします。

コーツさんの体では、このマスト細胞が非常に敏感になっており、ちょっとした抗原に対して、過剰にヒスタミンを分泌してしまうのです。

笑うだけでも命の危険! 強い「感情」にもアレルギー反応が起きる壮絶な難病
(画像=薬物療法で頭髪も抜け落ちている / Credit: Great Big Story – This Gymnast Is Literally Allergic to Everything, Even Exercise(youtube, 2020)、『ナゾロジー』より引用)

コーツさんの場合、強い感情に対してだけでなく、ボディスプレーや掃除用具、アロマキャンドルでもアレルギー反応が出るという。

また、食事に関しては、どれが安全でどれが危険かが完全には分かっておらず、数カ月間を鶏肉・ジャガイモ・ブロッコリーだけで過ごし、栄養失調になったこともあります。

コーツさんは現在、週5日個人秘書を雇っていますが、基本的には自立した生活を送っているそうです。

また、軽くであれば、体操や運動も可能だという。

笑うだけでも命の危険! 強い「感情」にもアレルギー反応が起きる壮絶な難病
(画像=難病との付き合い方が分かってきたとのこと / Credit: Great Big Story – This Gymnast Is Literally Allergic to Everything, Even Exercise(youtube, 2020)、『ナゾロジー』より引用)

コーツさんは、現在の状況について、こう話しています。

「体操は、体力面だけでなく、精神面でも私の人生を救ってくれました。

汗をかくと体が反応することもありますが、この病気と付き合う中で、どこまで追い込んでも大丈夫かが分かってきています。

笑うのも同じで、気を落ち着くべき時を感じられるようになりましたし、薬物療法もうまくいっているので、以前ほどアレルギー反応が起きなくなりました。

体操をやめるべきという人もいますが、体操は心身の健康面で、多くのものを私に与えてくれます。

家で何もしなくてもアレルギー反応は出てしまうので、外に出て生活する方が、心身の健康には良いのかもしれません」


参考文献

Woman With Rare Allergic Condition Almost Died After Laughing Too Much

‘I’m allergic to strong emotions – sweating, laughing or being sad could kill me’


提供元・ナゾロジー

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