バロンズ誌、今週のカバーはインカムゲイン投資を取り上げる。

2022年上半期に米株市場と米債市場が弱気相場入りするなか、ジャンク債から不動産投資信託(REIT)まで、投資家にとって幅広い投資の機会がやってきた。米債市場では、利回りは直近で8%と2倍に上昇し過去最大の売りがなだれ込んだと言える。これは、株式重視のポートフォリオに多様化の流れ強め、株式6割、債券4割という伝統的な配分が再び脚光を浴びそうだ。

コロナ以前に米債利回りはゼロ近くにあり、長きにわたり債券王と呼ばれたビル・グロス氏ですら「債券はゴミだ」とまで批判していた当時と、隔世の感がある。債券利回りは今後、さらに上昇しかねない(注:価格は下落)。

しかし、債券はもはやゴミではない。むしろ困難なインフレ高進を最も織り込んだ市場と言えよう。ハイイールド債、別名ジャンク債の利回りは8%以上であり、住宅ローン担保証券は5%、地方債は3~5%だ。米10年債利回りも3%にあり、インフレ連動債に至っては8%をつける。一方で、米株市場では配当利回りが銀行株から公益まで3%という状況だ。インカムゲインで注目の投資先や今後の見通しなど、詳細は本誌をご覧下さい。

バロンズ:Fed、景気後退リスクに耐えきれず2023年に利下げか
(画像=会見するパウエル議長 Fed HPより、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週は前回に続き米経済減速局面でのFedの利下げ転換に焦点を当てる。抄訳は、以下の通り。

中銀のタカ派姿勢、市場と経済次第で姿勢に変化も―Central Bankers Talk Tough on Interest Rates. That Could Change if Markets and Economies Don’t Perk Up.

米連邦準備制度理事会(FRB)元議長のベン・バーナンキ氏は、金融政策の98%はコミュニケーションにあると主張した。中銀は目標を世間や市場に伝えるべく意思を伝達するものだが、ラガルド欧州中央銀行(ECB)総裁は、このメモを取っていなかったようだ。ポルトガルのシントラで6月29日に開催されたECB年次フォーラムで、ラガルド氏はコロナ以前のような「低インフレ環境に戻るとは思わない」と言及した。この発言は、中銀がインフレ率の上昇に慣れ、最終的には足元で急上昇している金利を反転させることでインフレに対応しなければならない可能性をほのめかした。

ラガルド氏の発言は、中央銀行の長期的な決意、特に市場が低迷し経済が悪化した場合の中央銀行の決意に対する一部の有識者の懐疑的な見方を強めることにもなったかもしれない。BCAリサーチの首席エコノミストを最近退任したマーティン・バーンズ氏は、バンククレジットアナリストの7月号で「中央銀行にはインフレを絞り出すほど、長い期間にわたり政策を引き締め続ける気概はないだろう」と予測している。

債券の市場関係者は、バーンズ氏の見解に同調しているようだ。米経済に鈍化のサインが点灯するなか、未だ7月24~25日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で75bpの利上げを予想する向きが多いが、それ以降の利上げ見通しを大幅に巻き戻しつつある。何より、FOMC関係者が2024年までインフレ目標値の2%超えを予想しながら、彼らは2023年に利下げを織り込み始めている。

米2年債利回りは前週に22bp低下し2.83%をつけ、下げ幅は2020年3月のコロナ禍で経済活動が停止して以来で最大となった。米10年債利回りも24bp低下し2.88%をつけ、6月半ばにつけた3.5%を大きく下回る。

米経済の指標は、弱い内容が積み上がってきた。アトランタ地区連銀は米4~6月期実質GDP成長率をめぐり、今や2.1%減を予測する。

チャート:Q1の1.6%減に続きQ2にマイナス成長となれば、定義上は「景気後退」入り

バロンズ:Fed、景気後退リスクに耐えきれず2023年に利下げか
(画像=作成:My Big Apple NY、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

バーンズ氏によれば、米経済が実際に景気後退に陥るかどうかは、意味のある問題だ。消費者・企業マインドの急激な悪化、実質所得の減少、住宅市場のピークアウトは、たとえ失業率が低いままであっても、大きな弱点を示している。これらのことが相まって、一時的ではあるがインフレ率が低下するはずだ。

バーンズ氏いわくインフレを抑制してきた特別な要因が偶然に組み合わされることは、もはや政策立案者には期待できない。世界経済の供給サイドを強化した中国世界貿易機関(WTO)の加盟、1998年の新興国債務危機、今世紀初頭のITバブル崩壊、2008~09年のリーマン・ショックなど金融危機によるデフレの影響、経済の変動による労働者の交渉力の低下などが、それにあたる。

さらに、テクノロジーの進化の影響もある。しかし、バーンズ氏は、最近の大手ハイテク企業の製品による生産性の向上には疑問符を投げかけている。「フェイスブックやツイッター、ネットフリックスに費やす時間は、経済効率を上げるために明らかな利益をもたらさない」と、スコットランド人らしい皮肉たっぷりにコメントしている。

様々な理由から、政策当局が経済活性化のために資産インフレに頼る傾向が強まっている、とバーンズ氏は語る。実際、2020年と2021年には金融緩和政策によって資産インフレが生み出されたしかし、それはより一般的なインフレという形で現れ、サプライチェーンの混乱とウクライナ戦争によって悪化した。

Fed高官から発せられるメッセージは強気で、さらなる利上げを実現するかもしれない。しかし、景気が悪化していることが明らかになれば、すぐに引き締めを終了する可能性が高いとバーンズ氏は予測する。深刻な景気後退の可能性は低いが、政策担当者はチャンスを逃さず、インフレ率が目標の2%に戻るかどうかは疑わしいが、緩和的なスタンスに戻るだろう。

しかし、バーンズ氏はインフレ率は3%から4%の範囲に落ち着き、5%台に突入する可能性もあると見ている。そうなると、スタグフレーションの様相を呈してくる。インフレを抑制するほど成長は弱くなく、Fedが制限的なスタンスを維持するほど強くもない、と彼は結論付けている。

――以前から筆者は、Fedの政策転換が早期にやってくる可能性を指摘して参りました。それはこちらでお伝え済みですが、バロンズ誌の名物コラムも一段とその方向に傾いています。そもそも、パウエル議長率いるFedは、風見鶏のように金融政策や物価、景気後退入りなどに対するスタンスを変えてきました。内外の環境次第で、またいつ利下げに転換しないとも限りません。

チャート:パウエルFRB議長の発言とFedの政策スタンス、転換の歴史

バロンズ:Fed、景気後退リスクに耐えきれず2023年に利下げか
(画像=作成:My Big Apple NY、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

足元で確かに失業率は低水準にありますが、これは低い労働参加率が一因でしょう。その労働市場ですが、7月8日に米6月雇用統計の発表を控えます。米5月雇用統計では、①女性における労働参加率と失業率の上昇、②労働市場に再参入してきた人々の失業率の上昇――を確認しました。

さらに、足元でテクノロジー企業を中心にリストラが相次ぐ状況。労働市場次第では、FF先物市場での利上げ織り込み度が巻き戻され、むしろ米株安など政策転換へ向けた催促相場に転じる余地もあるでしょう。

その時、Fedが現状のようなタカ派姿勢を維持できるのか。筆者は引き続き9月前後に少なくとも利上げ幅の修正、その後の景気動向次第で23年中の利下げもあり得ると予想しています。米株相場はこうした流れに合わせ、年後半に戻りを試すのではないでしょうか。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年7月3日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

文・安田 佐和子/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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