「IQ」はいまいちな人も「o」は天才的かもしれません。

米国のヴァンダーヴィルド大学( Vanderbilt University)などで行われた複数の研究によって、人間にはIQとは独立した「o」と呼ばれる新たな才能が存在することが示されました。

「o」は物体認識にかかわる才能であり、この才能に秀でている人間はX線画像から小さな腫瘍を特定したり、複数の画像から仲間外れを探すなど、視覚情報に基づいて正しい判断を行う能力に優れている、とのこと。

また「o」の才能はかなりの部分が先天的なものであり、努力によって補うには限界があるようです。

記事の最後には「o」の才能を測定する簡易なテストも紹介しているので、興味がある人は試してみてください。

もしかしたら隠れた才能がみつかるかもしれません。

目次
「o」と呼ばれる新たな「物体認識の才能」があると判明!
頭の良さと物体認識能力は関係ない

「o」と呼ばれる新たな「物体認識の才能」があると判明!

IQとは独立した人間の新たな才能、物体認識能力「o」が発見される!
(画像=人間には「o」と呼ばれる新たな「物体認識の才能」があると判明! / Credit:Isabel Gauthier, CC BY-ND、『ナゾロジー』より引用)

私たち人間は個性があり、性格や知能はかなりのバラツキがあります。

しかし、物体を認識する能力については、それほど差があるとは思われていませんでした。

多くの人々は信号機や交通標識の認識に苦労することはなく、友達の顔と見知らぬ人の顔も簡単に識別可能です。

スーパーに買い物に行く場合でも、ブロッコリーとカリフラワー、レタスとキャベツの違いがわからなくなることもありません。

そのため人々は他の人も自分と同じように世の中の物体を認識していると信じていました。

しかし近年になって行われた複数の研究によって、差がないと思われていた物体認識能力には、想像以上の個人差が存在しており、さまざまな仕事の成績に影響を及ぼす「共通因子」として働いている可能性が示されています。

例えば以前の研究では、バードウォッチングが得意な人は胸部X線画像から腫瘍をみつけるのも得意であり、楽譜を素早く読める人は複数のパエリア料理の写真の中に紛れ込んだ、ピザの写真をすばやくみつけるなどの、料理を認識する能力にも優れていることが報告されました。

鳥と腫瘍、楽譜と料理は全く異なるものですが、基礎となる物体認識能力に優れた人は、どちらの検出も得意だったのです。

また別の246人を対象にした調査では、コンピューターによって生成された全く新規の参加者が初めて見る6系統の画像を使って、そこに映る物体の形状を記憶・認識する能力を調べました。

するとある系統の物体に対して高い認識能力を持つ場合、他の系統の物体にも高い認識能力を発揮することが判明したのです。

これらの結果をまとめると、次の図のように表すことが可能になります。

IQとは独立した人間の新たな才能、物体認識能力「o」が発見される!
(画像=基礎となる物体認識能力「o」を考慮に入れない場合 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)
IQとは独立した人間の新たな才能、物体認識能力「o」が発見される!
(画像=基礎となる物体認識能力「o」を考慮に入れる場合 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

鳥・腫瘍・楽譜・料理を認識する能力は知識や訓練の影響を受けており、鳥類学者や医師、ピアニスト、料理研究家であれば、自分の専門とする対象をよりよく認識することが可能です。

ですが同時に私たちには基礎となる物体認識能力が存在しており、経験によるボーナスは基礎能力の上に追加される形で存在しているのです。

(※経験の差がない初めて見る物体の認識能力は基礎能力に一致すると考えらえます)

そのため研究者たちは、この基礎となる「物体認識能力」を特別に「o」と呼ぶことにしました。

つまり、鳥を見つけるのが上手い人は基礎となる「o」のポテンシャルが高いために、腫瘍も上手く認識できていたのです。

同様に「o」の才能に恵まれている人の場合、楽譜の読み込みも料理の間違い探しも得意となります。

また新規の物体を対象にして個人の「o」の才能を比較したところIQテストの結果と同じくらい個人差のバラツキが存在することが判明しました。

また追加の調査で、さまざまな物体認識にかかわるテストを行った場合、個人の成績の89%が「o」の才能によって説明できる(支配されている)ことが示されました。

似たような結果は知能にかかわる分野でもみられます。

これまでの研究によって、記憶力が高い人は数学・言語能力が高い傾向があることが知られています。

そのため知能にかかわる分野の才能には「g」と呼ばれる基礎となる因子が存在しており、各分野の能力は「g」に加算される形で存在していると考えられています。

(※「o」は基礎となる知能因子「g」をリスペクトする形で名付けられたという経緯があります)

IQとは独立した人間の新たな才能、物体認識能力「o」が発見される!
(画像=基礎となる知能因子「g」を入れない場合 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)
IQとは独立した人間の新たな才能、物体認識能力「o」が発見される!
(画像=基礎となる知能因子「g」を入れる場合 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

また「g」の値は「IQ」と高度に相関(相関係数0.79)していることも知られています。

そうなると気になるのが知能と物体認識能力の関係です。

「g」や「o」はそれぞれの分野に属する能力の基礎となりますが、IQと「o」の2つには何らかの相関関係があるのでしょうか?

頭の良さと物体認識能力は関係ない

IQとは独立した人間の新たな才能、物体認識能力「o」が発見される!
(画像=頭の良さと物体認識能力は関係ない / Credit:Canva、『ナゾロジー』より引用)

知能の高さは物体認識能力の高さと相関関係にあるのか?

謎を解明するために行われたある研究では、IQや学力は、新規の物体を認識する能力には関連しないことが判明しました。

また物体認知能力の基礎「o」と知能の基礎「g」を比較した研究では、両者が無関係であることが示されました。

この結果は、知能や学力が優れていたとしても、基礎となる物体認識能力「o」が優れているとは限らないことを示します。

そのため研究者たちは、知能や学力が高い学生を医学部に入れて医者としての訓練を行ったとしても、X線画像から腫瘍をみつけるために必要な物体認識能力までもが保障されているわけではないと述べています。

極端な例を考えれば、医者として最高の知識と技術を持っていても基礎となる物体認識能力「o」が悲惨な数値の場合、腫瘍を見逃し続けるヤブ医者になる可能性があるのです。

個人の能力が先天的に決定されるという事実は、一部の人々にとって不快に感じられるかもしれません。

しかし研究者たちは、生来の才能によって開かれる扉の数が違うという事実は、受け入れる必要があると述べています。

うまれもっての才能を軽く扱い、育った環境や個人の努力を過度に重視することは、人間を不幸にするからです。

逆に、自分が持っている才能を見極め、自分が最も得意とする分野で努力することができれば、よりよい生活を送れるでしょう。

なお男女で物体認識能力を比較したところ、いくつかのジャンルでは経験の差によって違いがみられましたが、基礎となる「o」には差はないことが判明しています。

次のページでは物体認識能力「o」を判定する簡易なテストを受ける方法を紹介します。

自分のIQスコアを測定したことはある人は多くても「o」を測った人はまだいないはずです。

物体認識能力「o」の簡易なテストは現在ネット上で公開されており、誰でも無料で行うことができます。