目次
全生物最終共通祖先(LUCA)がもっていた体内時計の部品

全生物最終共通祖先(LUCA)がもっていた体内時計の部品

研究チームが着目したのは、培養した細胞でも概日時計が存在しているという性質でした。

つまり、細胞単位でその重要部品は隠されている可能性があったのです。

そして研究の結果、発見されたのが、細胞内のカルシウムイオン(Ca2+)濃度を制御するタンパク質でした。

これは正式にはNa+/Ca2+交換輸送体 (NCX)と呼ばれます。

NCXは細胞膜を介して、3個のナトリウムイオン(Na+)と1個のカルシウムイオン(Ca2+)を交換し、細胞内外のイオン濃度を調節しています。

そして、細胞内のカルシウムイオン濃度の増減は、ちょうど1日周期で起きていたのです。

研究チームは試しに、このNCXの働きを阻害する薬剤を細胞に与えてみました。

すると概日時計の温度補償性が失われてしまったのです。

さらに、このNCXはすべての生物の共通の祖先も持っていた可能性があります。

生命の系統樹というものを作って、生物進化の過程をたどっていくと、すべての生物は真核生物(動物や植物)と原核生物(細菌)に行き着きます。

全生物に共通する「体内時計の部品」が明らかに
(画像=DNAがむき出しなのが原核生物。DNAが核に包まれているのが真核生物。 / Credit:canva,ナゾロジー編集部,『ナゾロジー』より 引用)

この2つの分岐より、さらにさかのぼると古細菌と真正細菌の分岐があります。

そのさらに根本には、古細菌と真正細菌の共通祖先となる全生物最終共通祖先(LUCA)というものが現れます。

これがすべての生命の共通の祖先となる存在です。

これがどんな生物だったかは、さまざまな分野からいろいろな提案がされていますが、ゲノムサイズの小さな好熱菌だったと考えられています。

このLUCAに保存されていたと考えられる遺伝子は、現在355個が特定されているのですが、その中に今回発見されたNCXをコードする遺伝子も存在しているのです。

全生物に共通する「体内時計の部品」が明らかに
(画像=独立進化したと考えられていた体内時計には、すべての生物共通の祖先が持っていた起源となる部品が含まれていた / Credit:東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室,『ナゾロジー』より 引用)

この体内時計の起源となる部品を発見したことで、体内時計を制御したり調整する新薬を開発することができるかもしれません。

これは、睡眠障害やうつ病の克服にもつながる可能性が期待されています。

生物にとって1日という時間が重要な意味を持つことは間違いありません。

しかし、私たちは一体どうやってその感覚を手に入れたのでしょうか?

今回の研究は、そんな私たち共通の祖先に、どうして体内時計が生まれたかを知る画期的な手がかりともなるようです


参考文献

生命に共通する体内時計の部品を発見(東京大学)

元論文

Na+/Ca2+ exchanger mediates cold Ca2+ signaling conserved for temperature-compensated circadian rhythms


提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功