聖マラキの預言の内容
その預言内容をまとめた著書「全ての教皇に関する大司教聖マラキの預言」と呼ばれる預言書が1490年に登場した。カトリック教会では同預言書を「偽書」と批判する学者が少なくないが、その内容の多くは当たっているのだ。近代最高峰の神学者の一人と呼ばれた同16世は当然、聖マラキの預言の内容を知っていたはずだ(「法王に関する『聖マラキの預言』」2013年2月23日参考)。
ベネディクト16世は生前退位の決意を自分のうちに秘め、2013年2月を迎えた。教皇の生前退位発表が世界に伝わると、大きな驚きと混乱が起きた。同16世の生前退位について、健康悪化説が流れた。同16世自身も後日、「生前退位の主因は健康問題だった」と述べたことがある。その教皇は退位後、名誉教皇として9年間、バチカン内のマーテル・エクレシア修道院で生活している。
ベネディクト16世が当時、職務不能なほど健康問題を抱えていたという説は説得力に乏しい。繰り返すが、ドイツ出身のベネディクト16世は2013年2月の段階で、生前退位しなければならないほど健康問題を抱えていたわけではないのだ。
ベネディクト16世はクロス王と同様、神の願いを遵守して生前退位した。その後、どうなったのか。ベネディクト16世の退位後、コンクラーベが開催され、南米出身のフランシスコ教皇が第266代のローマ教皇に選出され、カトリック教会は今日まで存続している。
ただし、聖マラキがその預言書の中で、「ローマ教皇はベネディクト16世で終わる」と強く示唆していたことから、フランシスコ教皇後のカトリック教会は“ペテロの後継者”という看板を失った新しいカトリック教というべきかもしれない。
フランシスコ教皇は南米アルゼンチン出身だが、イタリアから南米に居住した移民の子だ。フランシスコ教皇はローマからいったん外に出、そして再びローマに戻ってきた「最初の教皇」だ。フランシスコ教皇のその出自は、カトリック教会が新しい出発をしたことを象徴的に示している、とも解釈できる。
「クロス王の夢」でユダヤ民族の歴史が激変したように、ひょっとしたら「ベネディクト16世の夢」も本来、キリスト教だけではなく、世界に大きな変化をもたらす何らかのインパクトがあったはずだが、実際は、ベネディクト16世が生前退位しただけで、カトリック教会を含み大きな変化はまだ見られない。
参考までに、今年4月に94歳となったベネディクト16世は個人的には、人生最後の日々に訴訟を受ける身となっている。同16世はミュンヘン大司教時代(1977年~1982年)、聖職者の未成年者への性的虐待問題を適切に処理せず、隠蔽していたとして、犠牲者から訴訟を起こされたばかりだ(「前教皇は聖職者の不祥事に対応せず」2022年1月22日参考)。
聖マラキの預言のように、ベネディクト16世は「最後の教皇」としてローマ・カトリック教会の歴史を閉じるべきだったとすれば、その神の計画は実行されず、その目標は延長された、というべきかもしれない。
ベネディクト16世が生前退位しなければならなかった“神の事情”がまだ見えてこないのだ。具体的には、2012年から2013年にかけて神は何を計画していたのか、という謎が解けない限り、「ベネディクト16世の夢」を正しく評価できないのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年6月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
文・長谷川 良/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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