「統計的有意差がないことは因果関係がないことを意味しない」という主張を厚労省が公式に認める
Ca-ssis/iStock(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

私は、以前に次のような主張をしました。

ワクチン問題:「統計的有意差なし」は「因果関係なし」を意味しない

今回厚労省が、この私の主張が正しいことを具体例を挙げて立証してくれました。実にいい仕事をしています。

厚労省の発表の要点を列記してみます。

・ファイザー製ワクチンで181件、モデルナ製ワクチンで30件のギラン・バレー症候群(以下GBSと略)疑い例の報告があった。
・このうち、15件がα判定(因果関係が否定できない)となった。
・現時点では、接種後のGBS発症率は、接種前の発症率と比較して、統計学的に有意に高くなかった。
・コロナワクチンの添付文書が改訂され、 GBSについての注意喚起が記載されることになった。
・海外(米国、英国、EU)において現時点では、コロナワクチン添付文書によるGBSの注意喚起はなされていない。

なお、GBS自体について知りたい方は、日本神経学会のWebサイトをご覧ください。

重要な点は、GBSの場合、統計的有意差は認められていないが、個々の症例では因果関係が認められたという点です。

ワクチンは健康な人に接種するため、一般の医薬品より高い安全性が求められます。ワクチンの重篤な副反応において許容される発生率は、数件~十数件/100万人接種くらいまでと考えられます。そして、その程度の低い発生率では、統計的有意差は多くの場合認められません。

これまで厚労省は、各疾患の接種後死亡の発生率は、人口動態統計等に基づく死亡発生率より有意に高くないため、因果関係はないとするロジックを用いてきました。しかし今回厚労省は、疾患の発生率に有意差がなくても、因果関係が有り得ることを実例を持って示したのです。これはコペルニクス的転回と言えます。

ダブルスタンダードはよくありません。今後は、接種後死亡において、「発生率が有意に高くないから、因果関係がない」と、厚労省は安易に断定するべきではありません。偶発性の検証や個別の症例分析により、因果関係の検証を地道に続けるべきです。

専門家でも、「発生率が有意に高くなければ、因果関係は否定される」と考える人が多数派なのが現実です。これを契機に、その認識が変わることを私は期待しています。

なお、「接種群の発生率がコントール群のそれより遥かに低ければ、因果関係がない」と考える専門家も存在します。このロジックも明らかな間違いです。偶発的な現象ならば、接種群の発生率とコントロール群のそれは、ほぼ同じであるはずです。大きな解離は、因果関係がないことを示しているわけではなく、大きなバイアスの存在を示してるだけの話です。

「数値を比較する時には、バイアス補正は必須である」というのは統計学の基本です。都合の悪い時だけ、この基本を無視して論じることは、科学者としてあるまじき行いです。

個別の症例分析においては、小島氏が指摘しているように、因果関係の認定プロセスに不可解な点があります。特に、アナフィラキシーと心筋炎の死亡例の認定には疑念を持っている臨床医が多いように思われます。検討部会の決定に対して、他の専門家が異議申し立てができる仕組みが必要です。因果関係の認定プロセスがブラックボックス化して、他の専門家に疑念を持たれているようでは、到底国民の理解は得られません。

最後に、海外(米国、英国、EU)でのGBSの扱いを見ておきます。現時点では、注意喚起はでていません。おそらく、統計的有意差がないことが理由と考えられます。これは科学的に正しい判断とは言えません。今回の件に限っては、厚労省の判断の方が正しかったと私は考えます。米英の判断がいつも正しいわけではなく、一流雑誌の論文が必ず正しいわけではないことを、肝に銘じておく必要があります。

文・鈴村 泰

文・鈴村 泰/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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