女優やモデルさん、絵画や彫刻、世界遺産の建築物を目にして、思わず「美しい…」と感じることがあるでしょう。
この「美しさ」を感じる脳領域は一つなのか、あるいは複数あるのか、これまで多くの調査がなされていますが、まだ答えは見つかっていません。
しかし今回、中国・清華大学の最新研究により、美しさを感じる脳領域は、人の顔と芸術作品とで異なることが判明しました。
人の顔と芸術作品とでは、美しさの質が違っていたようです。
研究は、10月21日付けで『Cognitive, Affective&Behavioural Neuroscience』に掲載されています。
目次
人の顔と芸術品では「美しさ」を感じる場所が違う
研究チームは、健康な被験者(18〜50歳、計982人)の脳分析をおこなった49件の先行研究をもとに、「美しさ」に関する刺激反応の関係性を調べました。
この手法は「活性化尤度(ゆうど)推定(Activation Likelihood Estimation : ALE)」と呼ばれ、複数の研究から報告された結果を統合する方法です。
対象となった研究の中には、人の顔や、絵画・彫刻・建築物などの芸術作品に焦点を当てた視覚テストが含まれています。
いずれのテストでも、fMRIを用いて被験者の脳画像を撮影し、視覚的な美しさを感じたときの反応が調べられました。
その結果、「人の顔」を見て美しいと感じたときには、以下の脳領域が活性化していました。
・腹内側前頭前野(英: ventromedial prefrontal cortex)
・前帯状皮質膝前部(英: pregenual anterior cingulate cortex)
・左腹側線条体(英: left ventral striatum)
対して、「芸術作品」を見たときには、内側前頭前皮質(英: anterior medial prefrontal cortex)で強い活性化が見られています。
こうした反応パターンの違いは何によるのでしょうか。
人の顔は「原始的」、芸術品は「社会的」な美しさ
研究主任のHu Chuan-Peng氏によると、美しい顔は「一次(原始的)報酬」で、美しい芸術品は「二次(社会的)報酬」にあたるとのこと。
一次報酬とは、食べ物や飲み物、異性など、種の生存にかかわる快楽で、二次報酬とは、私たちが経験の中で学習した快楽、例えば、お金や五感にかかわる心地よさ(風景の美しさ、肌触り、音楽など)です。
これまでの研究で、腹側線条体は一次報酬に、内側前頭前皮質は二次報酬に反応することがわかっています。
つまり、女優やモデルを見て「美しい」と感じるとき、それは性欲のような本能的な快楽に由来し、芸術品を見るときは、純粋に視覚的な美しさに感動しているのです。
古代ギリシアの哲学者プラトンなどは、私たちが「美しい」と感じるすべてのものの背後に、美しさの原型、いわゆる「美のイデア」が潜んでいると考えました。
しかし、それは「美しい」という言葉(概念)で一括りにしているだけです。
脳はこうした言葉に騙されることなく、人の顔と芸術品をまったく質の違う「美しさ」として受け取っているのです。
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功