太陽光発電に用いられるソーラーパネルは、太陽の位置によって発電効率が大きく変化します。
そこでアメリカ・スタンフォード大学(Stanford University)電気工学科に所属するニーナ・ベイディア氏ら研究チームは、太陽の位置に関係なく、効率よく集光できる逆ピラミッド型レンズを開発しました。
研究の詳細は、6月27日付の科学誌『Microsystems & Nanoengineering』に掲載されています。
目次
追尾型ソーラーパネルはメンテナンス費用が高い
「逆ピラミッド型レンズ」で固定したまま効率よく発電できる
追尾型ソーラーパネルはメンテナンス費用が高い
従来の固定式ソーラーパネルの効率を高めるためには、パネルの角度や向きに気を配らなければいけません。
例えば、屋根に設置する場合には「南向きで30度の角度が最適」だと言われてきました。
また最近では「追尾式ソーラーパネル」などもあります。
こちらは太陽を追って自動で向きを変えるため、高い効率で発電できます。
しかし追尾式ソーラーパネルにはデメリットもあります。
絶えず動くように設計されているため、固定式よりも多くの費用やメンテナンスが必要になるのです。
では、固定したままで効率を高める方法はないのでしょうか?
ベイディア氏ら研究チームは、試行錯誤を経て、逆ピラミッド型レンズを開発しました。
このレンズは、降り注ぐ光の角度や周波数に関係なく効率よく集光できるため、メンテナンスを簡略化したり、他の光学系分野にも応用したりできると言われています。
「逆ピラミッド型レンズ」で固定したまま効率よく発電できる
ベイディア氏によると、「逆ピラミッド型レンズのシステムは虫眼鏡の集光に似ている」ようです。
太陽の下で虫眼鏡をかざすと、太陽光が集まる「焦点」で、より明るく照らすことができますね。
逆ピラミッド型レンズも同様に、レンズ表面に当たる太陽光の約90%をとらえ、約3倍の明るさにして発電システムへと届けることができるのです。
ただし、虫眼鏡と逆ピラミッド型レンズには大きな違いもあります。
それは焦点の移動です。
虫眼鏡でつくった焦点は、太陽の位置に応じて変化してしまうため、同じ場所に光を集め続けるには、虫眼鏡の角度を絶えず調整しなければいけません。
対して逆ピラミッド型レンズでは、さまざまな屈折率をもつガラスとポリマー層の組み合わせによって、光を複雑に反射させます。
これにより、どの角度から入った光でも、最終的には逆ピラミッドの奥の1点に集約されるようになっているのです。
レンズを固定しながら、効率よく光を集められるというわけですね。
またこの構造と材料により、近紫外線から赤外線まで幅広いスペクトルの光を取り込むことが可能。
現在では、デバイスにヒビが入らないよう、複数の材料を利用しても同じ速度で熱膨張するよう調整されており、いくつかの素材を用いた3Dプリントでの再現も実証済みです。
そしてこの新しい集光システムは、宇宙船用太陽電池の改良に役立つだけでなく、ディスプレイや照明など他の分野への応用が期待されています。
参考文献
Stanford engineers’ optical concentrator could help solar arrays capture more light even on a cloudy day without tracking the sun
元論文
Immersion graded index optics: theory, design, and prototypes
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功