チンパンジーがハンセン病(らい病)にかかっているようです。
11月11日にbioRxivにて公表され『Science Magazine』で紹介された内容によると、チンパンジーたちの顔や手に異変が生じていることに気付いた研究者たちが調査を行った結果、ハンセン病の遺伝子が確認されたとのこと。
不用意な接触が、人間の病気をチンパンジーたちに移してしまったのでしょうか?
分析結果は、ハンセン病の起源に迫る意外な事実を浮き彫りにします。
目次
チンパンジーの感染していたハンセン病菌は人間にはほとんどみられない型だった
ハンセン病菌は人間の体ではなく環境に潜んでいる
チンパンジーの感染していたハンセン病菌は人間にはほとんどみられない型だった
ハンセン病は、顔や手足の形状を崩す恐ろしい病気である一方、他の動物には感染しない「人間だけの病気」だとして古くから知られていました。
しかし2000年以降、リスやアルマジロでハンセン病が発生していることが確認されるようになり、2017年には西アフリカの野生で暮らすチンパンジーにも症状が現れ始めます。
症状が現れたチンパンジーたちの顔や手はただれていき、人間と同じような病状の進行が確認されました。
そのため多くの研究者たちは、人間の病気がチンパンジーの間で広がっていると考えました。
しかし今回、チンパンジーから得られたハンセン病菌のDNAを分析した結果、意外な事実が浮かび上がります。
チンパンジーから得られた2種類のハンセン病菌(2Fと4N / 0)は人間の間でほとんどみられない、珍しい遺伝子型を持っていたのです。
特に2Fと呼ばれる遺伝子型は、これまで西アフリカでは報告すらされていないものでした。
つまり、チンパンジーから確認されたハンセン病が人間に由来すると考えるには、かなりの無理があったのです。
人間が感染源でないとするなら、チンパンジーたちは何からハンセン病をうつされたのでしょうか?
ハンセン病菌は人間の体ではなく環境に潜んでいる
チンパンジーにハンセン病をうつした謎の存在…
研究者たちは原因として「動物」と「土や水と言った環境そのもの」の2つの可能性を示唆しました。
というのも、チンパンジーは頻繁に狩りを行って他の動物の肉を食べていることが知られており、それら獲物との接触が感染の原因になった可能性があるからです。
最近になって発見された「M.lepromatosis」と呼ばれるハンセン病菌は人間の細胞では増殖できず、マウスなどの動物を介さなければ維持できないことがわかっています。
これは特定のハンセン病菌の増殖と流行に、人間の存在が一切関与しないケースが存在することを意味します。
また別の研究では、ハンセン病菌は水中や土壌で生き残ることが確認されているほか、アメーバや昆虫の体内での増殖能力が確認され、環境そのものにもハンセン病菌が長期にわたって潜み得ることが示されました。
ハンセン病菌のゲノムサイズは非常に小さく、様々な生物や多様な環境に潜むことができるようです。