いまや時計は単に時を伝えるツールにとどまらず、着ける人の個性をアピールする手段として確立しているが、その流れのなかで生まれてきたのが非常に独創的な機構やデザインを搭載したモデルだ。クロノグラフやワールドタイマーといった伝統的な技法に基づいた複雑時計とは一線を画し、いままでの時計設計の発想を超越した機構が続々登場し、各ブランドがその技術力をアピールしている。その内容を見ていると、いずれも単なるギミックに留まらない技術力が裏付けになっていることを感じさせる。当然ながら価格も非常に高額で、製造数も限られていることから入手も困難だが、時計ファンとしてはこうした語りどころがある時計はチェックしておきたいところ。今回は2022年の新作モデルからそうしたモデルをピックアップして紹介する。
カルティエ
マス ミステリユーズ
Oliver Arnaud ©︎Cartier
■Ref.CRWHRO0078。Pt(43.5mm径)。自動巻き(Cal.9801 MC)。世界限定30本。予価3775万2000円
カルティエが手がけるマス ミステリユーズは、表面にローターが露出しているが、そのローター以外の部分は空白になっている。つまりこのローター部分が、そのままムーヴメントになっているという実に奇想天外なモデルなのだ。時計の動力源として常に振れているローター自体に輪列を組み込んでしまうという発想もすごいが、そんな機構なのに正確に駆動するというのも不可思議。ムーヴメント機構は時計の動きから切り離されているように見えるが、この機構は実は精度面でも意味があり、トゥールビヨンのように姿勢差から生まれる重力の影響を分散させるのだそうだ。あまりにも謎が多いミステリーウオッチをさらっとリリースしてくるところが、カルティエらしいといえるのかもしれない。
アーミン・シュトローム
オービット-ファーストエディション
■Ref.ST22-GEFD.75.ST。SS(43.4mm径)。5気圧防水。自動巻き(Cal.ASS20)。世界限定25本。437万8000円(2022年10月発売予定)
アーミン・シュトロームはもともとスケルトンウオッチのデザインに長けたマニュファクチュールだが、このオービットはスポーティブなデザインをシックにまとめ上げている。大きな特徴はベゼルに日付け表示機能をもたせていること。先端が赤に塗られた大きな日付け針はコラムホイールで駆動し、オフにしたときは12時位置に戻り、プッシャーを押してオンにするとベゼル上の日付けを指し示す。日付けをオンにしているときは深夜0時で自動的に日付けが切り替わり、次のジャンプ時にはメカニカルメモリーによって正しい日付を指し示す。ブラックゴールドのコーティングが施されたバレル、マイクロローター、ワインディングブリッジの3種のブリッジは、見た目も美しく眺めているだけで楽しい。