目次

  1. 宇宙最強のタフネス
  2. 目覚めて繁殖する可能性は低い
クマムシを乗せた探査機が月に墜落! まさか月面で繁殖…?
(画像=クマムシ / Credit: depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

Point

■今年4月、数千匹のクマムシを積載した月探査機が着陸に失敗し、月面に衝突

■クマムシは真空・低温状態などあらゆる環境に耐えられるので、月面で生存している可能性が高い

■耐久力の秘密は体内の水分量を85%〜3%まで脱水して頑丈な乾燥状態を作る「乾眠」という習性にある

イスラエル・SpaceILによって開発された月探査機「べレシート」が月に衝突したと報じられました。

べレシートは今年2月に打ち上げられ、4月4日に月周回軌道への投入に成功しましたが、その後11日に管制塔との通信が途絶し行方不明に。そのまま月面に衝突し、着陸に失敗してしまいました。

そんなべレシートには探査機器の他に、一風変わった荷物が積まれていました。それが数千匹のクマムシを保存した容器です。クマムシと言えば、真空状態にも耐えられる宇宙最強の生物として知られており、そんな彼らが無傷で月に解き放たれた可能性も高いようです。

これはもしかして月面最初の植民者に…?

宇宙最強のタフネス

クマムシは18世紀にドイツの動物学者によって発見されて以来、多くの研究者たちを魅了し続けてきました。体長わずか0.5〜1mmほどで、顕微鏡で拡大してみるとクマや子豚のような姿をしています。

5つの体節と4対8脚の足でのそのそと歩き、生息場所も山の頂上や森の中、深海、砂漠と多岐に渡ります。

彼らの耐久力の秘密が隠れているのは、「乾眠」と呼ばれる習性。

クマムシは体内の水分量を85%〜3%にまで一気に脱水させ、極度の乾燥状態にも耐えられる状態を作り出すことができます。これを乾眠状態を呼び、この間はほぼ不死身の状態です。

クマムシを乗せた探査機が月に墜落! まさか月面で繁殖…?
(画像=Credit: depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

例えば沸騰したお湯の中に数時間いることも平気ですし、絶対零度にほど近い極低温まで耐え抜きます。また150度を少し越える環境にも耐えられるので、オーブンで軽く焼いても問題ありません。

おそらく人が日焼けマシーンに入るのと同じくらいの感覚で、クマムシも「あったかいんだから〜」と思っているくらいでしょう。この乾眠を使って彼らは、真空・乾燥・高温・低温・高圧・低圧とほぼ全ての過酷な環境を耐え抜きます。

まさに地球最強、いや宇宙最強のタフネスを誇る生物なのです。

目覚めて繁殖する可能性は低い

今回月面にクラッシュしたクマムシたちは、まさに乾眠状態にありました。

ポーランド・ポズナム大学の動物学者であるルカシュ・カチュマレク氏は「乾眠状態なら月面への衝撃程度ではまったく無傷であると考えられるので、この先何年もの間月面で生き延びるかもしれない」と指摘します。

ただ水を与えなければ乾眠状態からは目覚めないため、大気も水もない月面ではクマムシたちが、起き上がって月を植民し始める可能性はほぼゼロといえそうです。

クマムシを乗せた探査機が月に墜落! まさか月面で繁殖…?
(画像=Credit:pixabay、『ナゾロジー』より 引用)

それでも乾眠は驚異的な能力であり、その状態に入ると体の生物学的なエイジングも完全にストップします。生後1ヶ月で乾眠に入ると、数年後に目覚めてもまだ生後1ヶ月の若さを保っているというわけです。

ある観察では、苔の中で乾眠していたクマムシが120年ぶりに動き出した事例が確認されています。まさに「セルフ冷凍保存」と呼べる驚異的な能力です。さらに低温・凍結状態にある乾眠から復活するプロセスを研究することで、近い将来、人間が安全に冷凍保存から蘇る方法が見つかるかもしれません。

一方でカチュマレク氏は「衝突の影響で乾眠から目覚めた可能性も捨てきれない」と話します。もしクマムシが覚醒状態で月面に解き放たれているなら、真空状態と高い放射線濃度にさらされることで長くは持たないと予想されます。

しかし彼らのポテンシャルなら、自力で水を発見して宇宙最初の月面植民者となることもあるあ…ないか。

reference: theguardian, cnn / written by くらのすけ

提供元・ナゾロジー

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