冨山和彦さんと田原総一朗さんが「新L型経済 コロナ後の日本を立て直す 」でコロナ後の日本経済について語り合っています。その中で「昭和的価値観」と「ゾンビ企業」の退場を促して「新中間層」を生み出せないかというとても重要なスケッチを描いています。
グローバル産業は雇用の主力にはなりえない
先進国は―もちろん日本も―GDPの中でグローバル(G型)企業が稼ぎ出しているのは3割程度だそうです。では残りの7割はなにをやって稼いでいるかというと、地域密着型の中小企業であるローカル(L型)サービス業が生み出しています。日本の労働人口の8割は中小企業の従業員か非正規労働者であって、G型企業の正社員は2割程度しか存在しません。つまりL型産業をテコ入れしないことには、日本経済の立て直しは図れないということです。
グローバル企業経営のむずかしさ
地方のL型サービス業を中心に人手不足で、その傾向自体はコロナ禍でも変わっていません。介護や保育をリモートですることはできません。バスやタクシーも現状ではリモートワークはできません。医療・介護は特に人手が足りない状態です。
グローバル商圏で大企業が収益を増やしていくのは容易ではありません。けれども、L型経済を担う中小企業の経済力を高めることは決して難しいことではありません。そこに気づいていた人は、少ないようです。
グローバルIT企業は雇用を生まない
GAFAはデジタル時代に最も成功した企業ですが、雇用の数を生み出してはいません。一部のトップエリートが富を大きく分け合っています。それはデジタル革命下においては当然の帰結になります。
冨山さんは、大切なのは「新中産階級」を作ることだと言います。L型産業で働く人々、中小企業で働く人々こそが新しい中産階級として、適正な収入を得ていく社会になることが社会として重要事項です。しかも、日本には政治的な幸運がいくつかあったのです。
世界各国が取り組んだデジタル革命に、日本が決定的に乗り遅れたことで、他の国ほど格差が広がらなかったことです。だから政治的には先進国の中では圧倒的に安定した状況です。日本がGAFAのような成功を追いかけて成功したとしても、国内で中産階級雇用が生まれません。
エッセンシャルワーカーを「新中産階級」のモデルに
これからは、終身年功型サラリーマンを目指すべきだという社会的な圧力ではなく、真面目にコツコツと乗客を安全に運ぶ技能、看護師や介護士として高齢化社会を支える技能、あるいは生産現場の技能を生かして定年を迎えられるという生き方を肯定することができるかという価値観の転換が必要です。
多様性が経営を鍛える
L型産業はだいぶ前からジョブ型、技能職型で、転職は当たり前のことです。ある意味でL型のほうがすでに時代に適合していて、バスの運転手ならばバス会社やトラック物流会社を何社か渡り歩くというのは、ふつうです。
グローバルで戦える会社を目指すにしても、新卒一括採用生え抜きの同じ人材より、経営層は当然として、多くの人材が定期的に入れ替って、その都度の状況に合わせて最適なメンバーで戦えるようにしないと世界では勝負にならないようです。
産業構造とサラリーマン
デジタル化すると従来の終身年功サラリーマンと相性のいい産業構造が破壊されていくので、だんだんとジョブ型が進みます。
ジョブ型の仕事が増えてくるということは、一つのジョブに対してある程度のスキルセットが求められます。大学でなくてもかまいませんが、そうした技術やマインドを学べる場所が必要になります。
学んだ知識を活かして、社会に役立っているという実感を持って働く。そうした新中産階級としてたしかな報酬を得られて十分な生活ができる。こうした未来を日本は目指すべきだと指摘します。
20代や30代では低賃金・長時間労働が当たり前ですから、経済的な余裕など生まれるはずはありません。10年、20年先にならなければ、サラリーマン人生のほんとうのよさはわからないのです。そんな組織に未来はあるのでしょうか。ただでさえ、年金や健康保険などの社会保険料が毎年のように引き上げられて、サラリーマンの収入は減っています。
日本が、おそらくは世界も、これから目指すべき社会経済モデルは、産業、企業、個人のあらゆるレベルで「新陳代謝を前提とした包摂的なシステム」なのです。
こういう啓発活動ができるところもさすがです。
文・アゴラブックレビュー/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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