ブラックホールは重い星の重力崩壊によって形成されるというのが世間一般の常識です。

しかし、宇宙には星の崩壊に依らず、高密度の空間が崩壊することで形成されるブラックホールも存在すると言われています。

それはビッグバン直後の初期宇宙で誕生したとされていて、原始ブラックホールと呼ばれています。

米国物理学専門誌「Physical Review Letters」のオンライン版に2020年10月30日に掲載された研究では、この原始ブラックホールが、実はビッグバン直後に無数に誕生した別の「子」宇宙である可能性を語っています。

まるでSFかファンタジーのようなお話ですが、これは実際に検証可能な事実であり、そのための観測も開始されているといいます。

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ダークマターの正体? 原始ブラックホール

ダークマターの正体? 原始ブラックホール

「原始ブラックホールの中は別次元の宇宙」であり、それこそがダークマターの正体かもしれない
(画像=ブラックホールのイメージ。 / Credit: NASA/JPL-Caltech,『ナゾロジー』より 引用)

一般にはあまり聞き慣れない原始ブラックホールは、初期の宇宙で誕生したとされる天体起源ではないブラックホールのことです。

ビッグバン直後の宇宙は非常に高温高圧だったため、わずか30%程度の密度差で、その空間自体が重力崩壊を起こしてブラックホール形成したと考えられています。

この原始ブラックホールは、後にホーキング博士によって詳しく検証され、わずか 10−8 kg (0.00000001kg)という小さな質量でも形成可能だと理論的に示されました。

何の放射も起こさない見えない小さな重力源、それが無数に宇宙に散らばっているかもしれないのです。

それを聞くとピンとくる人がいるかもしれませんが、これは見えないけれど宇宙の重力の80%以上を占めているとされるダークマターの正体である可能性も指摘されています。

これはまだ理論上の存在に過ぎませんが、重力波望遠鏡「LOGO」が最初に観測したブラックホール連星の起源も、天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホールの起源も、原始ブラックホールによって自然説明できると言われています。

また、宇宙におけるの謎の1つ、金やプラチナなどの重元素の生成にも、原始ブラックホールが寄与している可能性があります。

重元素の合成には、大量の中性子の存在が重要となって来ますが、原始ブラックホールに中性子星が衝突した場合、この条件を満たす可能性が高いのです。

このように宇宙に秘められたさまざまな問題を解決させる可能性のある原始ブラックホールですが、一方で宇宙初期に起きたインフレーションと呼ばれる宇宙の急速な加速膨張期には、それほど密度のゆらぎがなかったということもわかっています。

つまり原始ブラックホールの形成は、非常に稀な出来事だったのです。

そのため、原始ブラックホールの形成は、単なる密度のゆらぎだけではなく、初期宇宙に起こったさまざまな物理過程の中で形成されたと考えられています。

そして、今回の研究チームは、原始ブラックホールの形成メカニズムについて、驚くべき大胆な可能性を提唱しました。

それは初期宇宙のインフレーションのとき生まれたかもしれない別の宇宙から、原始ブラックホールが形成されたかもしれないというものです。