ブラックホールは直接見ることができないとは言え、私たちのよく知る通常の物質から形成されると考えられています。

しかし、科学雑誌『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society(王立天文学会月報)』に掲載された新しい研究は、暗黒物質の集まり(ダークマターハロー)が直接崩壊して超大質量ブラックホールが形成されるという理論を報告しています。

これは初期宇宙に関する宇宙論にも重要な意味を持つ理論です。

超大質量ブラックホールはどうやってできるのか?

超大質量ブラックホールは「暗黒物質」で形成されているかもしれない
(画像=天の川銀河を取り巻く暗黒物質ハロー(青色)のイメージ。 / Credit:ESO/L. Calçada,『ナゾロジー』より 引用)

銀河の中心には太陽の数百万倍以上の質量を持つ、超大質量ブラックホールが存在しています。

現状の標準的なモデルでは、バリオン(星や惑星など目に見える通常の物質を構成する原子、元素)が、重力崩壊してブラックホールを形成し、それが時間の経過とともに物質を吸い込みながら成長していくと考えられています。

しかし超大質量ブラックホールは、ビッグバンから8億年程度の宇宙からも見つかっていて、どうやってそれほど急速に成長したのか十分に説明できていません。

この問題を解決させる考え方として、新しい研究は、銀河の中心となるような超大質量ブラックホールは暗黒物質で作られている可能性があるといいます。

暗黒物質はバラバラに宇宙に存在するわけではなく、自己重力で集まった塊となって存在しています。

これをダークマターハローと呼びます。

銀河の大部分の質量は、このダークマターハローが担っていると考えられていて、星の形成や運動にも大きな影響を与えています。

ダークマターハローは直接見ることはできませんが、重力レンズ効果や、ハローに束縛された高温のプラズマが放射するX線の観測などによって、間接的にその存在が示されています。

超大質量ブラックホールは「暗黒物質」で形成されているかもしれない
(画像=背景銀河の歪みなどから弱重力レンズ効果で推定されたダークマターの3次元分布図。 / Credit:東京大学/国立天文台,天文学辞典,『ナゾロジー』より 引用)

新しい理論は、このダークマターハローの中心が非常に集中していて、密度が臨界しきい値を超えたとき、ダークマターハローが崩壊して直接超大質量ブラックホールになると主張しているのです。

このモデルは、他に提案されている形成メカニズムよりも、はるかに急速に起こった可能性が高く、これによって初期の宇宙では超大質量ブラックホールが銀河の生まれる前に形成できたというのです。

研究を主導したアルゼンチンの国立ラプラタ大学の研究者カルロス・アルグエレス氏は、「この新しい形成シナリオは、事前の星形成を必要とせずに、初期の宇宙で超大質量ブラックホールがどのように形成されたか、自然に説明することができるかもしれない」と語っています。

この理論のもう1つの興味深い点は、小さなダークマターハローでは、崩壊の臨界質量に到達しない可能性があると予想されることです。

この場合、形成されるのは中央に暗黒物質の核を持つ矮小銀河です。

それは実際に観測されている銀河の回転曲率を説明することができるのだといいます。

私たちの天の川銀河の中心も、こうした濃い暗黒物質がきっかけとなって形成された可能性があります。

それは今後の研究課題となる問題ですが、暗黒物質の果たす役割は非常に大きなものになっているようです。


参考文献

New study suggests supermassive black holes could form from dark matter(eurekalert)

元論文

On the formation and stability of fermionic dark matter haloes in a cosmological framework


提供元・ナゾロジー

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