エネルギー温暖化問題が加速させる世界の対立と分断

G7諸国が化石燃料セクターへの公的融資から撤退したとしても、新興国、途上国がそれに追随するとは考えられない。途上国のエネルギーインフラニーズが今後も拡大していく中で、G7諸国が「化石燃料セクターは支援しない」と言えば、中国が嬉々としてその穴を埋めることになるだろう。中国においては17のSDGの中で気候行動に対する優先順位は15番目でしかないのだ。

ウクライナ戦争によって中国、ロシア等の権威主義国家と西側民主主義国家の対立・分断が顕在化している。当然、それぞれが国際社会の中で味方を増やそうとするだろう。中国は「自らの価値観を途上国に押し付ける西側先進国と異なり、自分たちは途上国の立場に立って支援を行う」として自らの影響力を拡大しようとするだろう。これは地政学的にも決して望ましいことではない。

途上国の立場からすれば経済発展のために各種インフラの整備が喫緊の課題であるのに、化石燃料を湯水のように使って豊かになり、温暖化問題の原因を作った先進国が、上から目線で途上国の化石燃料利用に制約を加えるのはとんでもない偽善と映るだろう。

昨年のCOP26で「国内石炭火力のフェーズアウト」との原案に対し、インドが「我が国には貧しい人が数億人おり、国内に潤沢に存在する石炭資源をクリーンに使うことは受け入れるが、フェーズアウトは不可」として最後まで抵抗し、「フェーズダウン」に改めさせた。

アジアのG7メンバーとして日本に託されたもの

筆者は温暖化交渉において先進国との差別化を要求する途上国と戦ってきたが、最近は環境原理主義的な立場から化石燃料を否定する欧米諸国の方に疑問を感ずる。COP26における石炭フェーズアウト論争もインドの議論の方によほど説得力を感じた。

G7レベルで前のめりのメッセージを出したとしてもインドネシアが議長を務めるG20サミットでそれが受け入れられるとは考えられない。

新興国が参加するG20において温暖化やエネルギー転換に関するトーンがG7よりも低くなるのは昨年の英国主催のG7、イタリア主催のG20で実証済みだ。ましてウクライナ戦争の結果、エネルギー・食糧品価格は高騰し、世界経済がスタグフレーションに陥るリスクが顕在化している。

環境原理主義はウクライナ戦争が突き付けた現実の前に、政治的スローガンとしてはともかく、現実からますます遠ざかっているように思える。来年の広島サミットでの日本のかじ取りは厳しいものになりそうだ。

しかし日本はアジアのエネルギーの現実をG7諸国の中で最も知悉している。欧米の尻馬に乗るのではなく、アジア地域からのG7メンバーとして、アジア諸国を包摂しうるような合意を導いてほしい。

文・有馬 純

文・有馬 純/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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