バロンズ誌、今週のカバーにオンライン中古車販売カーバナの隠れた問題を取り上げる。
テキサス州に住むテリー・バートン氏は、高校を卒業する息子のため、彼が欲しがっていたフォルクスワーゲンゴルフGTIを卒業祝いとして手渡すことを思いついた。しかし、カーバナで購入した時から、悪夢が始まった。息子がVWを運転していると、南テキサスの町で警察に2度も停止を求められたのだ。カーバナがバートン家にVWを引き渡した後、登録者名を変更していなかったためだ。
なぜそんなことが起こったのか、バートン一家が理解するまで半年も掛かった。なんとカーバナは、バートン家に販売した中古車の正式な所有権を持っていなかったのだ。
カーバナは、パンデミック下において、アマゾンでタオルを買うかのような簡単な手続きで中古車を購入できることから人気を博し、さらに自動販売機のように拠点からのピックアップも可能とあって、既存の中古車ディーラーから顧客を奪っていった。結果、カーバナの2021年小売販売台数前年比74%増の42.5万台、総数では59.5万台を計上、第2位のディーラーに躍り出た。
しかし、経済正常化が進むなか、コロナ禍での売上ペースの勢いを維持しようとするあまり、登録が遅れる問題が続出。足元、バートン家のような顧客による集団訴訟に直面しつつある。詳細は、本誌をご覧下さい。
足元の米株安、Fedの政策の足枷となるのか―Stocks Break Out. Will Recent Market Declines Restrain the Heavy Hand of the Fed?
「米株相場は、過去5回のリセッション入りを9回予測した」――経済学者であるポール・サミュエルソン氏は1960年代に、こんな皮肉を残した。半世紀を経た今、米株市場は景気を悪化させる要因となっているのだろうか。
企業は米株安を受け投資や採用を削減し、経済を減速させうる。そうなれば、米連邦準備制度理事会(FRB)は市場が警戒するほど積極的な利上げをせずにすみそうだ。2023年後半には、Fedが緩和策に転じる可能性すらある。
少なくとも、前週の市場動向はそうした見方を受け入れたかのようだ。原油先物や銅先物を始めとする商品価格に加え、信用市場が急伸。さらに米株相場は週足で4週ぶりに反発し、ダウは5.4%高、ナスダックは7.5%高、S&P500は6.4%高で終えた。一連の急反発は、米6月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値が過去最低を更新し、インフレ見通しが高止まりするなかで実現した。
チャート:米6月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値は過去最低も、1年先インフレ期待は速報値の5.4%→5.3%へ、5~10年先も速報値の3.3%→3.1%へそれぞれ下方修正
市場の主観的な見方は、中銀の政策にも影響を与えうる。パウエルFRB議長は、6月14~15日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、1994年以来となる75bpの利上げを決定した理由として、インフレ期待や米5月消費者物価指数(CPI)の上振れを挙げた。著名なエコノミストで知られるエバーコアISIのエド・ハイマン会長によれば、人々が景気後退を予想する理由は、インフレが約40年半ぶりの高水準にあり、Fedが大幅利上げを余儀なくされているとの見方に基づく。
では、FedはどこまでFF金利誘導目標レンジを引き上げるのだろうか?ハイマン氏によれば、3~5%のいずれの可能性もあるという。結局、どこまで利上げするかはインフレ次第であり、”良い”方向を示すまで分からず、その時が来るのを待つしかないようだ。
少なくとも、商品先物や信用市場はインフレや金利のピークが近い可能性を示唆している。景気の先行指標とされるドクター・カッパーつまり銅先物は6月23日には約1年ぶりの水準まで売り込まれ、過去3週間で16%安を記録した。こうした景気後退を連想させる値動きは米債市場にも吹き荒れ、米10年債利回りは6月13日週の3.48%から一時3.02%まで低下、米2年債利回りも足元のピークである3.44%から一時2.89%まで低下した。
このような利回りの急低下は、将来予想されるFedの政策が大幅に見直されたことを反映している。ユーロドル先物は、年末までのFedの追加利上げを暗黙のうちに織り込んでいたが、2023年後半に軸足を移し、それまでにインフレが十分に改善し、緩和されることを示唆する。
ルーソールド・グループのダグ・ラムゼー最高投資責任者(CIO)によれば、インフレ圧力がピークに達したとすれば、米株相場に感謝する必要がある。S&P500の「大幅」下落は過去55年間のデータで19%であり、弱気相場の定義である20%にわずかに及ばない。それでもラムゼー氏は、米株安が「通常、強力なディスインフレ・インパルスを解き放つ」と指摘する。
パウエル氏は、6月FOMC後の記者会見で米経済は引き締め寄りの金融政策への耐性があると発言したが、マクロ・インテリジェンス・2パートナーズによれば、米株相場となれば別だ。最高経営責任者(CEO)は株安に反応する傾向があり、購買部協会景気指数(PMI)で確認できるように雇用などが低下しやすい。だからこそ、同社は将来のFedの緩和策を見込み、2023年末のユーロドル先物の買いを推奨する。
こうした予想は、Fedの積極的な利上げ姿勢と市場予想と正反対だ。パウエルFRB議長は、半期に一度の議会証言でインフレ目標値2%を回帰させる意思を強調した。6月に公表した経済・金利見通しによれば、向こう2年間で失業率は緩やかな上昇にとどまる。
米債市場は、インフレが十分減速すれば、Fedが強硬姿勢を弱めると見込む半面、労働市場は2023年に弱まると想定している。一方で米株の投資家はというと、信用収縮の見込みが薄れたと判断したようで、前週に悲観論を後退させた。
概して、市場はFedがインフレ率を2%に回帰させる過程で、米経済を深刻な景気後退に導かないと見込む。米債市場や商品先物市場のディインフレのサインを受けて、FF先物市場では2023年半ばのFF金利誘導目標レンジは3.5~3.75%と織り込まれ、ドットチャートで表されるFOMC参加者の2023年末・中央値の3.375%を下回る。
チャート:FF先物市場、一時は3.5%超えの利上げを織り込んでいたが、足元は年末までに3.25~3.5%まで引き上げた後、2023年7月までは少なくとも据え置きの織り込みが優勢。
チャート:6月24日時点のFF先物市場によれば、足元の利上げサイクルは2023年1月あるいは3月での終了、同年5月の据え置き、同年6月あるいは7月の利下げ転換など、それぞれ織り込み始めた
ハイマン氏が指摘するように、Fedが十分利上げした時に我々はそれを知るのだろう。しかし、インフレ率が2%に戻るには、その後に続くリセッションを待つこととなりそうだ。
――バロンズ誌、早くもFedの利上げから利下げへの転換を予想してきました。筆者は2021年末時点から過去のFedの政策の展開を基に早い段階でのFedの利上げから利下げへの転換を予想しており、こちらでも指摘させて頂いてました。また、6月FOMC後も23年の利下げ転換を予想していましたが、バロンズ誌やFF先物市場もそのような見立てにシフトしつつあります。振り返れば、6月FOMCのドットチャートでは、2023年に1人が据え置きを、1人は利下げを予想していたものです。今後の物価、経済指標次第では、こうした見方がハト派を軸に広がらないとも限りません。
そうはいっても、問題はインフレ率が鈍化するか否か。米6月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値は頭打ちの期待を示しつつ、足元の買い戻しの流れは7月13日発表の米6月消費者物価指数(CPI)で試されることでしょう。何より、決算発表も予定するだけに高いボラティリティを維持しそうです。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年6月26日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。
文・安田 佐和子/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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