BIG3。トレーニーであれば、一度は耳にする言葉の一つだ。しかし、その理解については、疑問が残る人が多いのではないだろうか。正しいフォームで行っているだろうか? 根拠なく避けてはいないだろうか? そもそも必要なのか? そこで、BIG3に人一倍のこだわりを持つボディビルダー加藤直之選手に解説を依頼。第1回目の今回は、加藤選手がBIG3にこだわる原点から有効性を紐解いていく。(IRONMAN2018年6月号から引用)
BIG3は誰にでも必要?
なぜBIG3にこだわるのか?
まず一番の理由として、トレーニングを始めた当時、使っていた大学のトレーニングルームに、あまり設備がなかったということがあります。20歳になるまでの約10年間、体操競技に打ち込んでいたのですが、引退し、10㎏も体重が増加したため、トレーニングを始めました。当時、大学に通っていたのですが、学校の施設はフリーウエイト中心でした。その大学にトレーナーを目指している友人がいて、BIG3の手ほどきを受けた時に、この3種目をまずはやるべきだと教えられました。
体操競技では自身の体を押す力、引く力がバランスよく必要なため、競技者時代からチンニングは行っていました。勝手に命名しますが、私の中では、チンニングを含めてBIG4です(笑)。デッドリフトは、重量を下から引き上げ股関節を伸展させながら気をつけの姿勢までの動作となり、主にハムストリング、殿筋、脊柱起立筋、僧帽筋、広背筋を使います。
その中で背中のボディメイクと考えたとき、広背筋の伸展収縮動作のとれるチンニングを入れたほうが良いと考えました。下から引いて脊柱起立筋と僧帽筋をメインに、上から引いて広背筋をメインに鍛えるというニュアンスです。
現在もチンニングには、こだわりをもってやっています。ディップスにも言えることですが、体のバランスをとりながら引く動き、押す動きは体の感覚を養う上で重要だと考えます。
最初に通っていたジムは、老舗エンドウジムの津田沼店です。器具はそろっていたのですが、ほとんどフリーウエイトでやっていました。マシンの使い方を知らなかったというのもあります(笑)。BIG3をやりこんでいましたが、パワーリフティングに進もうとは思いませんでした。そもそも当時、スクワットは100㎏ほどしかかつげなかったですし、弱かったからです。もともと、体脂肪を減らしたいために始めたということもあります。
その後、仕事の関係で千葉県から神奈川県へ引越しをすることになり、チャンピオン平塚でお世話になりました。当時の会長(現代表)がパワーリフティング出身の方で、ほぼフリーウエイトのジムでした。設置されていたマシンは、ラットプルダウンとロープーリー、レッグプレス、レッグエクステンションとレッグカールができるマシン、それとスミスマシンです。そのような環境の中で何をやるかと考えた時、やはりBIG3プラスチンニングだと思い、やりこみました。それが私のBIG3こだわりの原点です。
筋力と筋肥大
トレーニングを始めた頃に触れたから大事にしているという、個人的な理由もありますが、筋肥大に「筋力」という要素があります。筋力を伸ばすためには、運動単位の動員率を高めること、筋断面積を大きくすることが必要となります。また、何よりも影響として強かったのが、その当時の、ボディビル日本チャンピオンだった田代誠さんの言葉です。以前、田代誠さんと廣田俊彦さんが対決する番組が放送されたのですが、その中で田代さんが「筋力付けば、筋肉付きますから」と言い切っていたんです。頭の中に、今でもこびりついています。当時の田代さんは、国内敵なしの時代です。国内絶対王者の説得力抜群の言葉に、「ああ、そうなんだな」と納得し、知識が乏しい私でしたが、BIG3の重量を上げていくことで筋力が上がる=筋肉がつく、という考えで行っていました。BIG3はパワーリフティングという競技にもなっていますし、一定の動作で、筋力が上がったかどうか判断もでき、筋力アップの指標として、一番わかりやすいとその時の私は考えました。結果的に効果は絶大で、筋量は着実に増えていきました。
ミスター千葉で優勝したときの仕上がり体重が62~63㎏であったのに対し、その2年半~3年ほどで仕上がり体重が70㎏ほどになりました。今考えるとこの時期が最もBIG3をやりこんだ時期でした。
BIG3はトレーニングの基本
BIG3は筋肥大において土台となるトレーニングです。マシンを中心に使ってトレーニングをされている方であっても、BIG3ができると、マシンの効かせ方も変わってきます。体の使い方が上手くなるからです。BIG3はダイナミックな動きの中で、たくさんの筋肉を動員しながらも、バランスを微調整していくような繊細な種目でもあります。例えば、スクワットの重りをかついでしゃがんで立つ動きには基本が集約されているといっても大げさではないと考えます。このような動作が上手くできないと、体が機能的に動かないので、筋肉に効かせることは難しいのではないでしょうか。このような理由から関節に問題がなければ、やるべきでしょう。
重量にこだわるべきか?
難しいところですが「ある程度こだわる」というのが私の答えです。重量にこだわり過ぎると、ケガもします。他には、上げることばかり考えていると、いかに可動域を減らすかということに焦点が移ります。現に、私はそのような時期がありました。そうなると目的が違ってきますよね。そこのはざまです。体づくりを目指すのであれば、自身の基準となる可動域を決め、その中で伸ばせるところまで伸ばす。まずは、そこが大事だと思います。
重量は追い求めるべきですが、そこは無限ではありません。年齢を重ねると、関節の負担も大きくなります。あくまで筋力は筋肥大の要素の一つです。私の経験を踏まえると、20代~30代前半は筋力を伸ばすことにBIG3を活用し、30代後半あたりからは重量にこだわりすぎることなく継続して行うのがいいと考えます。私は現在30代後半となり、BIG3の取り組み方を少し変えました。トレーニングの最初に行う場合は全身のウォーミングアップやその日のコンディションの確認、最後に行う場合は筋力の維持という意味で行っています。現在のトレーニングでは、ある程度の重量を挙げてはいますが、本数はかなり限定しています。
ただし、重量が伸びると楽しいという要素もあります。これはトレーニングに対する大きなモチベーションとなります。プラトーに陥り、打破したい場合、パワーリフティングのピーキングや、重量にこだわる時期を決めて行うなど、計画的に進めることをおすすめします。
BIG3は誰にでも必須?
ある程度やり込んだ上でルーティーンから外すのはいいと思いますが、行っていただいた方が良い種目です。繰り返しになりますが、全身の使い方、連動のさせ方、バランスなど、基本的な体の使い方を習得できるからです。初心者の方でしたら、まずはマシンでトレーニングができるようになってからBIG3に取り組んでください。中級者以上でしたら目的に合わせて取り組むといいでしょう。筋力メインに考えている場合は第1種目として、筋力維持と考えている場合は最終種目として行うことをおすすめします。その中で、基本的なフォームができていて、目的によってハーフやクウォーターに変えていくのはいいと思います。
例えば、デッドリフトの場合、フルレンジだとハムストリングや臀部、脊柱起立筋が大きく関与します。そういった効かせたい筋肉の、使い分けができていればいいと思います。スクワットが「キングオブエクササイズ」と呼ばれているのは読者の皆さんはご存知だと思います。下半身をメインとした全身種目で、心肺機能強化、そのキツさゆえに精神面の強化ができると言われ、トレーニングの全ての要素が網羅されているためです。BIG3が正しくできるということは、体がうまく協調し合っているわけですから、ケガの防止にもつながります。生涯トレーニングを長く続けていくためにも、アスリートから一般トレーニーまでBIG3は行うべきと考えます。動きの補強、ボディメイク、全てに共通する全身運動がBIG3です。次回からは、実際にそれぞれの種目ごとに解説していきます。
加藤直之(かとう・なおゆき)1981年生まれ、埼玉県出身。身長161㎝、体重69~71kg(オン)74~75kg(オフ)。トレーニング以外の趣味:子どもの寝顔を見ること。「親バカです(笑)」
主な戦績:
2005年千葉県ボディビル選手権優勝/2008年関東クラス別選手権75kg級優勝/2011年関東ボディビル選手権優勝/2012年ジャパンオープン選手権優勝/2013年日本選手権9位/2014年日本選手権11位、日本クラス別選手権70kg級優勝/2019年日本選手権3位、日本クラス別選手権70kg級3位、2021年日本クラス別選手権優勝、日本選手権4位、IFBB世界選手権40ー44歳80㎏以下級3位
執筆者:木村卓二
取材・文:木村卓二 撮影:岡部みつる 大会写真:中島康介
提供元・FITNESS LOVE
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