2014年、南米チリ中部において大規模な山火事が発生し、およそ2500棟の家屋が焼失し13人の死亡者を出しました。

その1年後、米アイダホ州で4000ヘクタール以上(東京ドーム約860個分)の面積を焼失させる大規模な山火事が発生します。

いずれも痛ましい大規模な山火事ですが、この2件にはある共通点がありました。

それは山火事の主な原因である、人為的な火入れや放火、落雷、乾燥による自然発火のいずれも当てはまらなかったのです。

では、この山火事はどうやって発生したのでしょうか?

驚いたことに、これらの山火事は電線に接触して感電死した鳥が、火のついた状態で地面に落ち、山火事の火種となっていたのです。

非常に特殊な例と思われる「鳥の感電死」による山火事ですが、米エンジニアリングコンサルタント会社・EDM Internationalは、これが実際どれくらいの頻度で起こっているのか調査研究を行いました。

研究の詳細は、2022年6月8日付で科学雑誌『Wildlife Society Bulletin』に掲載されています。

目次

  1. アメリカ西部に「鳥の感電死」による山火事が集中

アメリカ西部に「鳥の感電死」による山火事が集中

研究チームは今回、2014年1月〜2018年12月の間に発生した全米での山火事データを調査。

鳥が電線に接触して火災発生の原因になったことが断定できたケースだけを選定(現場に鳥の遺骸が落ちていた程度のものは除外)した結果、その期間の間に44件報告されていることが判明しました。

さらに、山火事の発生した場所を調査したところ、うち12件は、アメリカ西部の太平洋とシエラネバダ山脈に囲まれたオレゴン州南部からカリフォルニア州、メキシコ北部で発生しており、最も密集していることがわかりました。

この地域は、山や丘、渓谷が混在する北米特有の温暖な地中海性気候で、海からの恵みを受けた温暖で湿潤な冬と、高温で乾燥した夏が繰り返されます。

そのため、冬になると大量の植物が生え、それがすぐに乾燥して大量の燃料ができ、大規模な山火事の発生しやすい条件が整うのです。

また人口密度が高いために電線が多く、加えて、小さな鳥の他にタカやワシ、フクロウといった大型猛禽類も豊富であることから、余計に鳥の感電死が起こりやすい状況にあります。

鳥は電線に止まっても感電しないというイメージを持つ人は多いでしょうが、それは鳥が電線の中央に止まった場合、他とは何も接触していないため,鳥の体には電気が流れないというだけです。

片足が電柱に当たるなどすると、鳥も感電してしまいます。

タカやフクロウなどの鳥類は見晴らしのいい高圧塔の上に止まる傾向があり、電線の構造によっては感電死する危険が高まります。

電線で「感電死した鳥」が山火事の火種になっていた!
(画像=※ 画像はイメージです / Credit: canva、『ナゾロジー』より 引用)

本研究で報告された山火事に関しては概して小規模で、そのほとんどが約1.2ヘクタール(東京ドームの4分の1程度の広さ)でした。

しかし、最初に述べたチリやアイダホの火災が示すように、大規模な被害をもたらす危険性があることは確かです。

さらに、電線は火災だけでなく、鳥にとっても脅威となります。

最近の研究(Bird Conservation International , 2020)によると、中東イランにおいて2018年に電線との接触で感電死した235羽の鳥のうち、15%がソウゲンワシ(Aquila nipalensis)やエジプトハゲワシ(Neophron percnopterus)といった絶滅危惧種であったことがわかりました。

つまり、電線との接触は、山火事の発生だけでなく、貴重な鳥類が失われる危険性も含んでいるのです。

電線で「感電死した鳥」が山火事の火種になっていた!
(画像=希少な鳥類のエジプトハゲワシ / Credit: canva、『ナゾロジー』より 引用)

電線は、鳥が休憩したり、獲物を探したりするのに最適な場所であり、何らかの対策を取らない限り、今後も同じ事故が増え続けると考えられます。

そこで研究主任のテイラー・バーンズ(Taylor Barnes)氏は、鳥が止まっても安全なように電力インフラを改善する必要性を訴えます。

「確かに費用はかかりますが、山火事による人命の損失や電力インフラの故障といった、潜在的な経済コストに比べれば些細なものでしょう」とバーンズ氏は述べています。

参考文献
Electrocuted birds are sparking wildfires | Science
元論文
Wildland fires ignited by avian electrocutions

提供元・ナゾロジー

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