「生命はどこで生まれたの?」
これは人類にとってもっとも興味深い謎です。
生命を作るためには「アミノ酸」という分子の存在が重要になってきます。
アミノ酸は生命の設計図でもあるDNAの材料。このアミノ酸がどこからやってきたのか知ることができれば、生命の起源に迫ることができるかもしれません。
11月16日に天文学に関する科学雑誌『Nature Astronomy』で発表された新しい研究は、もっとも単純な構造のアミノ酸であるグリシンが、紫外線の放射がない密集した星間雲で形成された可能性があると報告しています。
アミノ酸は彗星などから検出されており、星や惑星の誕生より以前から宇宙にあったと示唆されていました。
しかし、今回の研究が事実ならば生命に重要な有機分子は想像よりずっと宇宙のあちこちにありふれて存在している可能性があります。
目次
暗い星間雲をシミュレートした暗黒化学

今回の発見は暗黒化学(Dark chemistry)という学問から明らかになったといいます。
あまり聞き慣れない単語ですが、研究の筆頭著者であるクイーン・メアリー大学のセルジョ・ヨッポロ氏は「暗黒化学は、高エネルギー放射線を必要としない化学を意味します」と説明しています。
もっとも単純なアミノ酸とされるグリシンは、彗星などから発見されていますが、宇宙でグリシンが形成されるためには高いエネルギーが必要だと考えられていて、研究されるグリシンの形成環境はかなり制限されていました。
通常、宇宙における化学では分子の生成のためには、紫外線照射(高エネルギーの放射線)が必要だと考えられているのです。
しかし今回の研究は、そうした制約なしにグリシンが凍結したチリの表面で形成できる可能性を示しています。
研究チームはまず実験室で、宇宙の暗い星間雲の状態をシミュレートしました。
星間雲に浮かぶ10~20K(ケルビン)の冷たいチリの粒子は、CO, NH3, CH4, H2Oが豊富な氷の薄層に覆われています。
ここで原子同士が衝突して、断片化したものが再結合すると、グリシンの前駆体(形成される前段階の分子)であるメチルアミンが最初に生成されるとわかったのです。
このメチルアミンは、世界で初めて彗星着陸の調査が行われた「チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星」のコマ(彗星を取り巻くガスやチリ)からも検出されています。
そして研究チームは宇宙空間でメチルアミンから、グリシンを形成できることを実験から確認したのです。
生命のもとは宇宙にありふれている

今回の研究の重要な点は、生命の構成要素と考えられる分子が、星と惑星が形成されるかなり前の段階ですでに形成されていると示したことです。
星形成領域の進化の初期で、すでにグリシンのようなアミノ酸が形成されているということは、これらアミノ酸が今まで考えていたよりもずっと当たり前に宇宙のあちこちで存在していることを示唆しています。
実験室でわずか1日で得られたデータを、何百万年もの歳月をかけて作られる星間環境に適用すれば、かなりの量のグリシンが時間とともに宇宙空間で形成されていると考えることができます。
グリシンは一度形成されれば、他の複雑な有機分子の前駆体として機能します。
同じメカニズが続くと考えれば、原理的にはグリシンを材料として、アラニンやセリンなど他のアミノ酸が形成されていき、最終的には濃縮された有機分子が彗星などに含まれて、地球のような若い惑星に届けられると推測できるのです。
複雑な有機分子が、暗い宇宙の星間雲の中で作り出され、あちこちの惑星へ運ばれているとしたら、宇宙に生命が溢れている可能性もかなり高くなるかもしれません。
提供元・ナゾロジー
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