いわゆる“鳴り物”といわれる音が鳴る時計のなかでも、ミニッツリピーターは最高レベルの複雑さで、トゥールビヨンや永久カレンダーと並んで世界3大複雑機構のひとつに挙げられる。簡単に言えばゴングとハンマーが内部にセッティングされており、大きなハンマーで時、もうひとつの小さなハンマーで分を、その時刻の回数分だけ叩くことで、音によって時刻を知らせてくれる機構である(分を回数分だけ鳴らすのはたいへんなため、大小両方のハンマーを同時に鳴らすことで15分単位の告知になっているものが多い)。
 当然ながらミニッツリピーターを手がけられるのは、技術的に卓越したごく一部のブランドに限られる。なぜ手がけられるブランドが少ないかというと主にふたつの理由がある。

1:機構の複雑さ・設計の難しさ
リピーター機構にはスネイルと呼ばれる変形カムを搭載する必要がある。スネイルは分・15分・時の3種類が必要で、このスネイルがラックと呼ばれる歯竿と連動し、現在時刻を読み取ってハンマーを回数分叩くように伝える。この機構を通常の輪列とは別に用意しなくてはならないため、どうしても部品の組み合わせが複雑にならざるをえない。さらにハンマーを動かすための動力もゼンマイで賄わなければならないため、通常よりも強力なゼンマイを搭載する必要がある。腕時計の限られたケース内で、これだけのパーツがスムーズに絡み合う設計を行うのは至難の技なのだ。

2:美しい音の追求
小さなサイズの腕時計でも、高級なミニッツリピーターはよく澄んでいて響きの長い音を奏でる。しかし、美しい音を出すためにはゴングやハンマーの素材や形状、セッティングにこだわって設計する必要がある。そもそも時計は気密性が求められるプロダクトであり、音が響きにくいのが当たり前なのだが、近年は音響解析技術が進んだことで、よりいい音を奏でる素材や反響のためのスペース設計研究が大幅に進化した。ムーヴメントとの共振によるノイズ発生も低減されている。美しい音色はミニッツリピーターの評価を大きく左右するファクターと言えるだろう。

 2022年新作にも目を引く新作ミニッツリピーターがいくつかあった。ここでピックアップして紹介しよう。

A.ランゲ&ゾーネ
リヒャルト・ランゲ・ミニッツリピーター

【美しい音色を響かせる3大機構のひとつ】2022年新作モデルから厳選したミニッツリピーターウオッチ3選
(画像=『Watch LIFE NEWS』より引用)

■Ref.606.079F。Pt(39mm径、9.7mm厚)。2気圧防水。手巻き(Cal.L122.1)。世界限定50本。ブティック限定。時価(2022年9月発売予定)

 コンプリケーションを得意とするランゲだが、鳴り物時計に関してはかなり独創的なモデルが目立っていた。今回のリヒャルト・ランゲ・ミニッツリピーターは、従来製品と比べると伝統的なミニッツリピーターの技法にぐっと接近したモデルだと感じさせる。エナメルダイアルのシンプルなルックスだが、その中身として搭載された自社製Cal.L122.1は総パーツ数415点という複雑なもので、そのほとんどのパーツが手作業で生み出されたもの。シースルーバックからミニッツリピーターの動きが確認できるが、9.7mmという薄いケースにこの機構を美しく収めていて目で見ても楽しい。熟練の職人によってチューニングされた音色も美しい。

【美しい音色を響かせる3大機構のひとつ】2022年新作モデルから厳選したミニッツリピーターウオッチ3選
(画像=『Watch LIFE NEWS』より引用)

このモデルのために新開発されたCal.L122.1に備えられているハンマー打ち機構は、ケース左側面に取り付けられたスライダーを操作すると時、正15分、分の数を打ち鳴らすという伝統的な打鐘形式に基づいて設計されており、高音と低音に調律された二つのゴングが、12時間周期で1分ごとに異なる打鐘シーケンスで時刻を奏でるようにプログラミングされている

【問い合わせ先】A.ランゲ&ゾーネ TEL.0120-23-1845

ショパール
L.U.C フル・ストライク トゥルービヨン

【美しい音色を響かせる3大機構のひとつ】2022年新作モデルから厳選したミニッツリピーターウオッチ3選
(画像=『Watch LIFE NEWS』より引用)

■Ref.161987-5001。K18エシカルローズゴールド(42.5mm径、12.58mm厚)。手巻き(Cal. L.U.C 08.02-L)。世界限定20本。予価4776万2000円/©Federal-Studio

 ショパールが誇るL.U.C コレクションの25周年を記念してリリースされたモデル。2016年にリリースされたチャイムウオッチ、L.U.C フル ストライクに、トゥールビヨン機構を追加するというなんとも贅沢な仕上がりになっている。ムーヴメントの機構をレイヤー構造にしつつ、マイクロローターなどパーツの小型化にもこだわることで、徹底的にダウンサイジングすることに成功。ローズゴールドダイヤルからトゥールビヨンとミニッツリピーター両機構が覗けるデザインは、複雑時計ファンにはたまらないところだろう。クラシックの弦楽奏者を呼んで研究したというサウンドへのこだわりもショパールらしい。

【美しい音色を響かせる3大機構のひとつ】2022年新作モデルから厳選したミニッツリピーターウオッチ3選
(画像=『Watch LIFE NEWS』より引用)

弦楽奏者ルノー&ゴーティエ・カピュソン兄弟によって保証されたサファイアクリスタルの一体型ゴングが奏でる豊潤な音色は、究極のクオリティを誇っている

【問い合わせ先】ショパール ジャパン プレス TEL.03-5524-8922

ブルガリ
オクト フィニッシモ ミニッツリピーター

【美しい音色を響かせる3大機構のひとつ】2022年新作モデルから厳選したミニッツリピーターウオッチ3選
(画像=『Watch LIFE NEWS』より引用)

■Ref.SAP103669。TI(40mm径)。3気圧防水。手巻き(Cal.BVL362)。2146万1000円(2022年7月発売予定、予価)

 薄さをエレガントに昇華したデザインで知られるブルガリのオクトシリーズだが、ある程度の容積が必要なミニッツリピーターでもそのこだわりは健在だ。ケースの厚みはわずか6.61mmで、ミニッツリピーターとしてはもちろん世界最薄。搭載されている自社製Cal.BVL362は、厚み3.12mmだというから驚きだ。軽量なチタンを採用したアイコニックな八角形ケースに、インデックス部分をオープンワークにした個性的なデザインのダイアルを合わせている。このオープンワークはミニッツリピーターの音響効果をアップさせる効果があると同時に、オクトらしいモダニズムを視覚的にも表現している。

【問い合わせ先】ブルガリ ジャパン TEL.03-6362-0100

文・巽 英俊、構成◎堀内大輔(編集部)/提供元・Watch LIFE NEWS

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