point
- ビッグバンから7億年という初期宇宙で太陽質量の15億倍というクエーサーが発見された
- 宇宙誕生からこれだけ短期間で、この質量のクエーサー誕生は現状では説明できない
- ブラックホールの成長進化は、現状の理解では足りていないことが示唆される
中心ブラックホールが太陽15億個の質量を持つ、初期宇宙から発見された中では、これまで最大規模のクエーサーが発見されました。
クエーサーは宇宙でもっとも明るく高エネルギーの天体で、クエーサーが宇宙史においていつ出現したかは、天文学者たちが強く関心を向ける問題の1つです。
新しいクエーサーは、ハワイのマウナケア山の望遠鏡から発見されたことを記念して、ハワイ先住民の名前からとった「Pōniuāʻena:ポニウアーナ(発音:POH-knee-ew-aah-EH-na)」と名付けられました。
これはビッグバンから始まる宇宙史、特に再イオン化時代を理解する上で重要な発見になるようです。
理論上存在するはずない巨大クエーサー
現在の理論では、クエーサーは超巨大なブラックホールを動力源として活動しています。
ブラックホールがチリやガスを吸い上げると、膨大なエネルギーを放出し、銀河全体を凌駕する明るさを放つのです。
これがクエーサーの正体ですが、そのためには、非常に巨大な質量のブラックホールが必要になります。
ブラックホールは物質を吸い込みながら徐々に成長・進化していきます。これまでも太陽の400億倍などと表現される巨大なクエーサーは発見されています。
「Pōniuāʻena」の質量は太陽のおよそ15億倍であり、これまで発見報告のあるクエーサーと比べて別段巨大という印象はありません。
問題は、このクエーサーが見つかった場所にあります。
「Pōniuāʻena」は地球から約130億2000万光年という距離に発見されました。これはビッグバンから約7億年後の宇宙に存在していたことを意味しています。
これは現在知られている中で2番目に遠いクエーサーであり、同年代に見つかったものとしては最大規模のクエーサーです。(最遠のクエーサーはこれより200万光年遠いが、初期宇宙ではほぼ誤差の範囲)
今回の研究の筆頭著者、アリゾナ大学スチュワード天文台のJinyi Yang氏は「これは私たちが知るクエーサーの中で、もっとも初期の怪物だ」と述べています。
ビッグバンから7億年という短期間で、単一の星の崩壊から形成されたブラックホールが、このレベルまで進化するというのは、現状の宇宙論モデルでは説明できません。
こうした天体が初期宇宙に見つかるという事実は、私たちがブラックホールの成長速度を見誤っていた可能性を示唆しているのです。
研究者たちは、このクエーサーがビッグバンの1億年後という早い段階で、すでに太陽1万個に相当する質量の種ブラックホールからスタートしなければならなかったと考えています。
初期の宇宙
現在の理論では、最初の星や銀河が誕生したのはビッグバン後3億年から4億年の「再イオン化の時代」と考えられています。
このとき誕生した最初の星やクエーサーは、冷えた宇宙を再度加熱し、放射線によって宇宙に満ちていた中性水素原子から電子を剥ぎ取り電離(イオン化)させました。
現在宇宙に広がる水素ガスはこのときの影響でほとんどが電離したプラズマの状態になっています。
こうした時代の中に「Pōniuā’ena」も存在しています。
この天体の存在は、宇宙再イオン化時代に何があったのかを知る手がかりになるものです。
現在のところ、初期の巨大クエーサー「Pōniuā’ena」の誕生を明確に説明する理論はありませんが、ここから初期宇宙の状態を知ることができるかもしれません。
この研究は、アリゾナ大学スチュワード天文台の研究者Jinyi Yang氏を筆頭とした研究チームより発表され、論文は天文学に関する学術雑誌『The Astrophysical Journal Letters』に掲載されます。
現在はプレプリントサーバー「arXiv」で内容を閲覧可能です。
Pōniuā’ena: A Luminous z=7.5 Quasar Hosting a 1.5 Billion Solar Mass Black Hole
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功