point
- 約8億光年先に太陽の2.6倍の質量を持つ謎の天体を発見
- 正体は「中性子星」か「ブラックホール」のいずれか
- 中性子星なら最大質量を、ブラックホールなら最小質量の記録を更新
質量の大きな星は、寿命を終えると超新星爆発を起こします。
そこで残った芯の重さが太陽の2倍程度なら「中性子星」となり、質量がそれ以上なら重力崩壊が進み「ブラックホール」となります。
これまでに見つかった最も重い中性子星は太陽質量の約2.5倍で、最も軽いブラックホールは太陽質量の約5倍でした。現在の理論モデルでは、それぞれが、中性子星のマックス値とブラックホールのミニマム値の上限と言われています。
と同時に天文学者たちは、数十年の間、「この質量差の間を埋める天体があるのではないか」と考えていました。
そして今回、「LIGO(レーザー干渉計重力波天文台、米)」と「Virgo(ヨーロッパ重力観測所、伊)」の観測により、両者の中間に位置する、太陽質量2.6倍の天体がついに発見されたのです。
正体はまだ分かっておらず、現時点では、ブラックホールと中性子星のハーフを示す「ブラック中性子星(Black neutron star)」と呼ばれています。
最大or最小の記録を更新
この天体は、観測史に前例がなく、既知の天文学を書き換える可能性を秘めています。
その存在が初確認されたのは、2019年8月14日。
観測では、太陽質量2.6倍のその天体が、連星系のパートナーである太陽質量23倍のブラックホールと合体する様子が確認されたとのことです。
衝突の影響で、合体した一部が強力なエネルギーを放ち、それが重力波の形でキャッチされました。
重力波が観測できるのは、以下の場合です。
パルサーは中性子星の一種と言われているので、謎の天体は、中性子星かブラックホールのどちらか一方ということになります。
しかし、いずれにせよ、「最も重い中性子星」と「最も軽いブラックホール」の記録を更新したことに変わりありません。
結局、両者は合体後、太陽質量25倍のブラックホールとなっています。
追観測では発見できず
天体の存在は、発見後すぐに世界各地の天文研究所に報告され、数十の地上および宇宙望遠鏡を用いて追観測が行われました。
しかし、何らの光信号も確認できていません。これには3つの理由が考えられます。
1つ目は、観測対象があまりに遠すぎたことです。謎の天体とブラックホールの位置は、地球から8億光年も先にありました。
2つ目は、謎の天体がブラックホールである可能性です。中性子星なら、衝突時に何らかの光を放ちますが、ブラックホール同士だと光は出ません。
3つ目は、両者の質量差が大きすぎたことです。天体が中性子星だったとしても、ブラックホールとの質量差は9倍あります。これでは、中性子星の光が簡単に飲み込まれてしまうのです。
まるで「パックマンが小さな点を一口で食べるようなものだ」と研究員は述べます。
また、重力波が観測された天文現象において、今回の衝突は過去最大の質量差でした。
研究チームは「このような極端な質量差のある天体同士の合体は、現在知られる理論モデルでは不可能です。同様の現象は、私たちが予想する以上に頻繁に起こっている可能性があり、今後の研究課題となるでしょう」と述べました。
謎の天体はすでにブラックホールの一部となってしまいましたが、正体の解明も含め、今後も調査は続きます。
研究の詳細は、6月23日付けで「The Astrophysical Journal Letters」に掲載されました。
GW190814: Gravitational Waves from the Coalescence of a 23 Solar Mass Black Hole with a 2.6 Solar Mass Compact Object
提供元・ナゾロジー
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