超大質量ブラックホールは銀河の中心にどっしりと居座っているものですが、それが宇宙をうろうろと動き回ることはありうるのでしょうか?
3月12日に科学雑誌『Astrophyiscal Journal』に掲載された新しい研究は、銀河と超大質量ブラックホールの移動速度をそれぞれ別に測定することに成功し、観測した10個の銀河のうちの1つで、ブラックホールが別個に移動しているのを確認したと報告しています。
銀河内で超大質量ブラックホールが移動する可能性は理論上指摘されていましたが、観測での確認は非常に困難だと証明されていました。
今回の発見は、こうした観測としては、これまででもっとも明確なケースとなるようです。
目次
質量の大きな物体は動かない
宇宙をさまよう超大質量ブラックホールの発見
質量の大きな物体は動かない
回転する銀河の中心には、太陽の数百万倍以上という質量を持った超大質量ブラックホールがあります。
この超大質量ブラックホールは、銀河の中心に居座ったまま、通常は動くことがないと考えられています。
なぜなら質量とは、物体の動かしにくさを示す数字だからです。
例えばサッカーボールと同じ大きさの、重たいボーリング玉を使ってサッカーができるかと考えてみましょう。
ボーリング玉を蹴って高く打ち上げたり、スムーズに転がすことは無理だろうと、すぐ想像がつくと思います。
質量が大きいと、それは動かしにくい状態になります。
超大質量ブラックホールを動かすというのは、とんでもないパワーを必要とするため、普通動くことはないと考えられるのです。
ただ、銀河自体が宇宙を移動することはよく知られています。
私たちの住む天の川銀河も、過去に他の銀河と衝突している痕跡が見つかっています。
そのため、天文学者はブラックホールは、それが存在する銀河と同じ速度で移動しているだろうと考えられます。
もし、両者の速度が異なっていた場合、それは動くはずのない超大質量ブラックホールが銀河内を別個に動き回っていることになるからです。
しかし、理論上は、そんな超大質量ブラックホールの移動もありえるとされています。
ただ、それが観測によって明確に確認されたことは、ほとんどありません。
ところが今回の研究は、そんなまれな現象を発見したと報告しているのです。
宇宙をさまよう超大質量ブラックホールの発見
今回の研究チームは、ブラックホールの周りを回転する降着円盤を研究して、これが放つメーザー(現象としてはレーザーとまったく同じ電磁放射)を利用してブラックホールの正確な速度を測定する方法を確立しました。
そして遠方の銀河10個と、そのコアとなっている超大質量ブラックホールのそれぞれの速度を測定したのです。
この観測では、9個の銀河は中心ブラックホールと速度が一致していました。
しかし、そのうちの1つ「SDSS J043703.67 + 245606.8(以下J0437 + 2456)」と呼ばれる銀河だけ、中心の超大質量ブラックホールが異なる速度を示したのです。
この銀河は、おうし座の方角、約2億3000万光年離れた場所にあり、中心の超大質量ブラックホールは、太陽質量の約300万倍と推定されています。
観測結果によると、この銀河の中心ブラックホールは、銀河の中を時速17万7000km近い速度で移動していました。
なぜ、そのような動きを示すのか、その原因はまだ不明です。
研究者の推測では、これが2つの超大質量ブラックホールの融合した後である可能性を考えています。
融合後のブラックホールは、その反動によって大きく動くことがあるからです。
しかし、別のもっとエキサイティングな可能性もあると研究者は語ります。
それは、この超大質量ブラックホールが連星系の一部であるという可能性です。
超大質量ブラックホールの連星は、理論上は豊富に存在しているはずだと予想されていますが、実際観測で確認されたことはほとんどありません。
今回の発見はそうした、まれな発見の例である可能性があり、ペアとなったもう1つのブラックホールのメーザー放射は電波観測から隠れているのかもしれません。
なんにせよ、この異常な動きを示す超大質量ブラックホールの真相を突き止めるには、さらなる観察が必要となるだろうと、研究者は述べています。
参考文献
Astronomers Detect a Black Hole on the Move(Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics)
元論文
A Restless Supermassive Black Hole in the Galaxy J0437+2456
提供元・ナゾロジー
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