2017年から実施された、夜空を広く電波波長でスキャンする「VLA Sky Survey」の観測データから、非常に明るい珍しい電波源が発見されました。

天文学者は最初、これが何を映しているのか分かりませんでしたが、追跡観測の結果、驚くべき現象が明らかとなったのです。

カリフォルニア工科大学(caltech)の研究チームは、これがブラックホールあるいは中性子星が星の核に侵入し核融合を破壊することで起こした新しいタイプの超新星爆発だったと特定したのです。

これは理論的には予想されていましたが、実際観測によって確認されたのは初めてのことです。

この研究の詳細は、9月3日付で科学雑誌『Science』に掲載されています。

目次
どこかがおかしい夜空に輝く電波フレア
2つの異変をつなげる推理

どこかがおかしい夜空に輝く電波フレア

「ブラックホールが星の核に入り込む」新しい超新星爆発が見つかる
(画像=米ニューメキシコ州にあるアメリカ国立電波天文台の超大型干渉電波望遠鏡群-Very Large Array,(VLA) / Credit:wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

VLAは直径25mもある巨大なパラボラアンテナを27機並べた巨大電波望遠鏡群です。

2017年に、このVLAを使った掃天観測(広く宇宙をスキャンする観測)「VLASS」が実施されました。

カリフォルニア工科大学の大学院生ディロン・ドン氏は、こうした電波観測のデータから電波過渡現象という、短命な電波波長の明るい発光現象を探していました。

電波過渡現象は、大質量星の爆発や、中性子星の合体など、異常な天文学的現象を発見するために有効だったからです。

そして、ドン氏はVLAの膨大なデータの中から、「VT 1210+4956」と名付けられた非常に明るい電波源を発見したのです。

これは以前に行われた同様の電波掃天観測(FIRST)の中には、見つかっていない天体でした。

そこで、彼はこの天体を詳しく調べてみることにしたのです。

その結果、この明るい電波源は、地球から約4億8000万光年離れた矮小銀河の周辺であることがわかりました。

そして、その原因が星から放出されたガスが殻のように周辺の空間を包み、そのガスシェルに超新星爆発によって吹き飛ばされた物質が衝突することで発生していたということも突き止めたのです。

この発見について、同じカリフォルニア工科大学の大学院生アンナ・ホー氏は、この電波現象をX線スペクトルの観測と比較してみてはどうか? という提案をしました。

そこでドン氏、90分おきに全天のX線スキャンを行っている国際宇宙ステーションに搭載された日本の全天X線監視装置(MAXI)のデータカタログを調査してみることにしました。

「ブラックホールが星の核に入り込む」新しい超新星爆発が見つかる
(画像=90分で全天をスキャンする国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」日本実験棟船外実験プラットフォームに搭載されている全天X線監視装置「MAXI 」 / Credit:JAXA,宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センター、『ナゾロジー』より引用)

X線もさまざまな見えない宇宙の現象を探るために有効な観測方法です。

すると、驚いたことに今回の電波過渡現象とまったく同じ位置で2014年に明るいX線の発光が捉えられていたのです。

ここで観測されていたX線過渡現象は非常に珍しい現象で、それはブラックホールなどが物質を飲み込んだ際、降着円盤の極方向に光に近い速度で物質を吹き飛ばす相対論的ジェットを発射したことを示しているものでした。

どうやら2017年に確認された電波過渡現象は、2014年に吹き飛ばされた物質が、数世紀前に星から放出された高密度のガスに衝突して起きたものだったと考えられるのです。

しかし、この2つの現象は通常関連付けられたことがなく、単独で見た場合でもそれぞれが非常に珍しい現象でした。

なぜ、そんな珍しい現象が宇宙のまったく同じ場所で立て続けに起こったのでしょうか?

2つの異変をつなげる推理

「VT 1210+4956」で一体何が起こっていたのか?

ドン氏を中心とした研究チームは、観測された事実をつなぎ合わせる現象を慎重にモデル化させました。

そして、もっとも可能性の高い説明を見つけたのです。

チームはここに非常に重い天体の連星があったと考えました。

太陽よりもはるかに巨大な星は、連星のペアとして誕生することが珍しくありません。

2つの星は互いに密接して周回していましたが、一方の星が先に寿命を迎え超新星爆発を起こして、非常にコンパクトなブラックホールか超高密度の中性子星となりました。

「ブラックホールが星の核に入り込む」新しい超新星爆発が見つかる
(画像=巨大星の連星の一方が先にブラックホール化し、2つの天体は密接に回っていた / Credit: Bill Saxton, NRAO/AUI/NSF、『ナゾロジー』より引用)

このブラックホール(または中性子星)は、約300年前に伴星の大気圏に突入し、星のガスを周囲の宇宙空間へと放出し始めたのです。

それは螺旋状にガスを舞い上げて天体をトーラス(ドーナツ状)に包み込むガスの殻を形成しました。

「ブラックホールが星の核に入り込む」新しい超新星爆発が見つかる
(画像=ブラックホールが伴星の大気圏に突入。ガスを螺旋状に舞い上げトーラスのガスシェルを形成した。 / Credit: Bill Saxton, NRAO/AUI/NSF、『ナゾロジー』より引用)

そしてこのブラックホールは、ついに伴星のコアに侵入します。

そして核の核融合を破壊して、コアを崩壊させ、このとき自身の周りに一時的な物質の円盤を形成し、極方向へ光の速さに近いジェットを噴出させて星を貫通させたのです。

これが2014年にMAXIに観測されたX線過渡現象でした。

「ブラックホールが星の核に入り込む」新しい超新星爆発が見つかる
(画像=侵入したブラックホールは伴星のコアに到達し物質を一時的な円盤を形成して極方向に超高速ジェットを噴射した。 / Credit: Bill Saxton, NRAO/AUI/NSF、『ナゾロジー』より引用)

そして、コアを破壊された星は崩壊し、超新星爆発を起こします。

この超新星爆発によって吹き飛ばされた物質を伴う衝撃波が、数年後ガスシェルへと到達し、その衝突が2017年にVLAで観測された明るい電波を生成したのです。

「ブラックホールが星の核に入り込む」新しい超新星爆発が見つかる
(画像=ブラックホールによってコアを破壊され崩壊した星は超新星爆発を起こし、その衝撃波と吹き飛ばされた物質がガスシェルに衝突して電波過渡現象を起こした。 / Credit: Bill Saxton, NRAO/AUI/NSF、『ナゾロジー』より引用)

重い伴星はいずれは超新星爆発を起こす運命でした。

しかし、それはもっとずっと先の未来のことだったでしょう。

それがブラックホール(あるいは中性子星)となったペアの侵入によって、予定よりずっと早く超新星爆発を起こしたのです。

こうしたブラックホールを伴星とした連星は、通常非常に安定した軌道で回り続けるため、長いと数十億年連星としての形を維持し続けるといいます。

これが急速に接近して、伴星を崩壊させるという現象は、理論的には予想されていましたが、実際観測されたのはこれが初めてのことです。

「すべてピースが合わさって、この驚くべき物語のパズルが完成しました。

こんな現象をVLASSで発見できるとは思っていなかったので驚きの結果です」

研究チームの1人、カリフォルニア工科大学のグレッグ・ハリナン教授はそのように語っています。

【編集注 2021.09.07 10:49】
記事内容に誤字があったため、修正して再送しております。


参考文献

A Black Hole Triggers a Premature Supernova

Stellar Collision Triggers Supernova Explosion

元論文

A transient radio source consistent with a merger-triggered core collapse supernova


提供元・ナゾロジー

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