音の速度とはどのくらいでしょうか?
こう質問されれば、多くの人が迷わず時速約1000キロメートル(マッハ1)という数字を思い浮かべるかもしれませんが、これは大気中を伝わる音波の標準的な移動速度です。
実は液体や固体など伝わる媒体が変われば音速も変化していきます。
では、この宇宙でもっとも音を速く伝えるものはなんでしょうか? そしてその速度は一体どのくらいになるのでしょうか?
10月9日に科学誌『Science Advances.』で発表された新しい研究では、宇宙における音速の上限を特定したと報告しており、その速度は秒速36キロメートル(時速12万9600キロメートル)になるといいます。
これは一体どうやって導き出されたのでしょうか?
音速、光速の制限速度
アインシュタインの特殊相対性理論は、真空中の光に制限速度を与えました。
これは秒速約30万キロメートルで、光は真空中を電場と磁場の振動によって永続的に伝播していきます。しかし、光も水や大気のような媒体を通過するときは、その速度が低下します。
音は光とは異なり単純な振動エネルギーです。音は媒体となる物質の分子が衝突しあってそのエネルギーを伝達していきます。
そのため、音は媒体が硬いほど伝わりやすくなり、その伝達速度も増加します。
例えば、水は空気よりも粒子の密度が高いため音は速く遠くまで伝わります。過去に紹介したことがありますが、クジラが海中で遠方まで歌を響かせられるのはこのためです。
さらに固体中であれば、その伝達速度や伝わりやすさは空気中よりさらに高くなります。
そこで気になってくるのは、音速は最大でどのくらいの速度で媒体を伝わることが可能なのか? ということです。
何もなくても伝わる光速の上限速度は、すぐに特定されましたが、音の場合これは非常に難しい質問です。なぜならこれを決定するためには、宇宙にある全物質中の音の伝達速度を調べなければ、答えが出せないからです。
そこで今回の研究チームが着目したのは、基本定数を利用した音速の計算でした。
定数を使った音速の計算
研究で利用されたのは、荷電粒子間の電磁的な相互作用の強さを表す「微細構造定数」と、「陽子と電子の質量比」という2つの物理定数です。
こうした物理定数は、宇宙のどこへいっても変化することのない決められた値で、星の核融合や陽子の崩壊など宇宙を形成する現象を支配しています。
そして、研究チームはこの2つの定数を単純に組み合わせるだけで、固体や液体を伝わる波の移動速度を計算できることを発見したのです。
こうして作り出した方程式が実際に正しいかどうか、チームはさまざまな元素や固体液体中を伝わる音速の実験値と、計算された予想値を比べてみました。すると、それらの値はすべて見事に一致したのです。