(総務省「消費者物価指数」ほか)
4月から、「物価」をテーマにさまざまな論点について解説してきた。今回は3カ月間の締めくくりとして、消費者物価指数の先行きについて展望する。
資源高・円安を受けて、コア消費者物価指数(生鮮食品を除く総合。以下、コアCPI)は4月に、消費増税の影響を除けば13年半ぶりとなる前年比2%台の伸びに達した。食料品を中心に幅広い品目が値上がりすることで、年内のコアCPIの前年比伸び率は2%台での推移が続くだろう。
しかし、足元の物価上昇は賃金の伸びを伴っておらず、こうしたコストプッシュ型のインフレには持続性がない。コアCPIの伸び率は、昨年の通信料値下げの影響がすべて剥落する第4四半期(10~12月期)にピーク(2.4%)となり、その後は海外経済の減速(財需要の一服)等を受けて、商品価格が徐々に低下するとともに鈍化していく見通しだ(図表1)。
日本では、値上げを行わないことが「ノルム(社会的規範)」として企業・消費者の間に定着している。現状、企業・家計はこのノルムから脱却できていない(本連載で紹介したプライベートブランドの価格据え置き戦略はその一例である)。原油価格や通信料といった要因で物価が一時的に変動することはあっても、こうした構造は簡単には変わらないだろう。輸入物価高騰の影響が一服する2023年後半には、コアCPIの伸び率は再び0%台まで鈍化するとみる。その頃には再び「なぜ日本の物価は上がらないのか」という議論が浮上するかもしれない。
ただし、日本銀行の「生活意識に関するアンケート調査」(22年3月調査)で、「家計が財・サービスを選ぶ際に重視すること(今後1年間)」を見ると、「価格が安い」(回答者割合51.7%)がトップに上がる一方で、安全性(同43.8%)、耐久性(同40.4%)、といった品質面も重視していることが分かる(図表2)。
価格競争が厳しいのは事実だが、付加価値の高い財・サービスを提供できれば、それに見合った価格設定を行える余地はある。家計の購買意欲を高めるような商品を提供できるか、企業の創意工夫が試されるだろう。
文・みずほリサーチ&テクノロジーズ 上席主任エコノミスト / 酒井 才介
提供元・きんざいOnline
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