人間は食物の味を確かめ、記憶と照らし合わせて、「それが何か」判断できます。
では、人間のような味覚を機械に与えることはできるでしょうか?
IBM基礎研究所(IBM Research)に所属するパトリック・ラッチ氏ら研究チームは、電子舌「ハイパーテイスト」を開発し、その成果を発表しています。
ハイパーテイストは持ち運び可能な小型デバイスであり、ミネラルウォーターの種類、ワインのブランド、コーヒーの濃さなど判別できるようです。
研究の詳細は、2022年6月10日付の科学誌『IEEE Xplore』で発表されました。
目次
電子舌「ハイパーテイスト」
ミネラルウォーターやフルーツジュース、ワインの種類を判別できる
電子舌「ハイパーテイスト」
研究チームは、視覚や聴覚など「人間の感覚を模倣したAIや機械学習」に触発され、液体の種類を判別できる電子舌「ハイパーテイスト」を開発しました。
ラッチ氏はハイパーテイストの構造について、次のように解説しています。
「私たちの舌には、何千もの味蕾(味を感じる味細胞の集まり)があります。
そして電子舌は、味蕾のような味センサーを複数配列することで本物の舌のような構造を作り出しているのです」
加えて、「各センサーは電池の仕組みに少し似ていている」とも述べています。
電池は「プラス極の材料」と「マイナス極の材料」を「電解液」に浸すことで化学反応を引き起こし、電子の移動によって電流を発生させています。
電子舌も同じように、センサーを「調査したい液体」に浸すことで、液体特有の電気信号が発生するようになっています。
そしてこの信号は、小型デバイスからモバイルアプリへと送信され、その後、クラウドサーバーへと転送。
クラウドサーバーでは、機械学習モデルによって味データの学習、データベースにある既知の液体との比較が行われます。
1~2分後には、液体を特定したり、液体の特性を分析したりして、その結果をアプリに報告してくれるのです。
確かにこのメカニズムは、まるで人間の味覚システムのようですね。
電子舌「ハイパーテイスト」は、私たちと同じように、新しい飲み物を味わったときにその味の特性を知り、記憶します。
そしてこの経験を積み重ねることで味の違いを判断し、その液体の種類を特定できるのです。
では実際に電子舌は、どれほどのテイスティングが可能なのでしょうか?
ミネラルウォーターやフルーツジュース、ワインの種類を判別できる
ハイパーテイストが2019年に初めて開発されたときには、いくつかの液体を判別することしかできませんでした。
しかし今では、もっと複雑で多くの種類を調べることができます。
例えば、ミネラルウォーターの種類、フルーツジュースに使われている果物の種類、ワインのブランドと産地、コーヒーの濃さなどをテストできます。
さらに、人体に有害な成分が含まれる粗悪な密造酒かどうかも判断できるとのこと。
ラッチ氏は、ハイパーテイストを使って、「液体の出所調査」「偽造品の排除」「品質を一定に保つための品質管理」「新しい飲料を生み出すための開発」が可能だとしています。
しかしハイパーテイストは、pHや酸素濃度を測る従来の化学センサーとは異なります。
特定の化合物の検出には特化していないため、分子量や毒素を正確に定量化したい場合など、本格的な化学調査には向かないのです。
電子舌「ハイパーテイスト」は名前の通り、「舌」としてさまざまな味を判別するために用いるのが最善のようです。
参考文献
Meet HyperTaste, an AI-Assisted Electronic Tongue
元論文
A reconfigurable integrated electronic tongue and its use in accelerated analysis of juices and wines
提供元・ナゾロジー
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