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ブラックホールは新たな相
未解決問題 情報パラドックスも解決できる?

ブラックホールは新たな相

こうした新しいブラックホールのイメージはさらに興味深い考え方を提示しています。

球状物質が重力でつぶれ、高密度の物体(ブラックホール)になる様子は、極限的に重力が強まることで物質が凝集する過程と類似しています。

物質の凝集とは、例えば水蒸気(気体相)が水(液体相)へと変化するようなものです。

「事象の地平面」を持たない新たなブラックホールの姿が理論的に導かれる。 情報問題も解決可能
(画像=物質の3態。/Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

最終的にブラックホールは蒸発すると理論的に予想されていますが、これは水になったものが再び水蒸気に戻ることと同じです。

こうした相転移は、あらゆる物質に普遍的に発生します。

つまり、ブラックホールとは液体や気体同様に、あらゆる物質が強い重力下で極限的にとる新たな状態「ブラックホール相」として捉えることができるのです。

未解決問題 情報パラドックスも解決できる?

「事象の地平面」を持たない新たなブラックホールの姿が理論的に導かれる。 情報問題も解決可能
(画像=強重力下ではどんな物体も極限的状態としてブラックホールになり、情報デバイスになる可能性がある。/Credit:理化学研究所、『ナゾロジー』より引用)

さらにこの研究の大きな成果は、ブラックホールが抱える情報問題を解決できるかもしれない点です。

ブラックホールは、吸い込んだ物質の情報を消失させてしまうのではないか? という話を先にしましたが、どういう原理かは不明なものの、ブラックホールは物質の情報をその表面に保持できる、ということが理論的に導かれています。

これはベッケンシュタイン・ホーキング公式と呼ばれていて、ブラックホールが蓄えることのできる情報量は、その表面積に比例するとされています。

ブラックホールは3次元空間の構造であるにも関わらず、蓄える情報量は表面積に比例するというのは奇妙な話です。

これはすべての3次元情報が2次元情報に置き換え可能だというホログラフィック理論に繋がっていきますが、ブラックホールの保存する情報問題については、完全に解明できておらず未解決問題として残っています。

しかし今回の研究が示す解では、物質がブラックホール内部にどの様に分布しているかがわかるため、その情報(波動関数)についても特定することができます。

ブラックホールが持つ情報量は、与えられたエネルギーや体積の下で、何パターンの波動関数が取り得るか? という形で表されます。

これを今回の研究から計算すると、情報がブラックホール内部で取り得るパターンの総数が、ベッケンシュタイン・ホーキング公式と一致するのです。

つまり、今回の研究が示したブラックホールの内部構造は、これまで知られているブラックホール外部の振る舞いと整合性を持っているのです。

このため、今回の研究を詳しく検証していけば、ブラックホールの情報問題(蒸発した後どのように情報が戻ってくるのか?)が解決できるかもしれないのです。