”水中の狙撃手(スナイパー)”として知られるテッポウウオは、1〜2メートル離れた場所から、茂みの中の昆虫を撃ち落とすことができます。

その様子を映像などで見た人は多いでしょうが、どんな仕組みで水の弾が発射されているか、ご存知でしょうか?

ここでは、水弾が発射されるまでの基本的なメカニズムと、テッポウウオが射撃に使っている「裏テク」まで紹介していきます。

目次
テッポウウオの射撃はどんな仕組み?
水中から獲物を撃ち落とす「裏テク」がすごい

テッポウウオの射撃はどんな仕組み?

水中から2m先の獲物を撃ち落とす!テッポウウオの「射撃のしくみ」を解説
(画像=テッポウウオ / Credit: jp.depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

テッポウウオ(Toxotidae)は、スズキ目テッポウウオ科の魚で、アジア太平洋の淡水域から汽水域(淡水と海水が混じり合う中間領域)に生息します。

とくに、マングローブ林のような植物の生い茂る海岸を好むことで有名です。

熱帯域に広く分布し、沖縄の西表島が北限となっていることから、水温の高いエリアに適しています。

体長は平均15〜25センチで、水中の小魚や甲殻類をすばやい泳ぎで捕まえる他、水鉄砲をつかった昆虫の捕食を得意とします。

おもに日中に狩りをしますが、この時間帯は水辺を行き交う昆虫が少ないため、少ない弾数で仕留める正確さが強いられます。

では実際に、テッポウウオの射撃はどのような仕組みになっているのでしょうか?

Archerfish spit precision loogies(youtube/2014) テッポウウオの射撃はまず、弾丸の通り路である「銃身」を作ることから始まります。

テッポウウオの舌には、靴べら状の骨が通っており、それを口内天井の硬口蓋(こうこうがい)に当てます。

この口蓋には溝があり、舌骨がピタリとはまる作りになっています。

CTスキャナー(コンピューター断層撮影)を用いた最近の研究で、テッポウウオの舌骨や、それが硬口蓋にはまる骨の構造が明らかにされました。

水中から2m先の獲物を撃ち落とす!テッポウウオの「射撃のしくみ」を解説
(画像=テッポウウオの舌骨と硬口蓋の3Dイメージ / Credit: M 、『ナゾロジー』より 引用)

G Girard et al., Integrative Organismal Biology(2022) こうして水の弾丸の通り路(チューブ)が準備されます。

次に、口内に含まれた水が、エラ蓋のあたりで圧縮され、それをパタンッと閉じることで水弾がチューブを通り抜け、勢いよく発射されます。

エラ蓋の役割は、いわば、銃の「引き金」に相当するでしょう。

それともう一つ、水弾はそのまままっすぐ飛び出すのではなく、口先の手前で「少し膨らんだ空洞」に入ります。

一度、この空洞に入ることで、その先の射出口が急に狭くなり、水弾のスピードが加速したり、流れが安定するのです。

これは男性の泌尿器にある仕組みと同じです。

男性ならば誰でも狙った場所におしっこを飛ばそうと試したことがあると思いますが、テッポウウオの水弾はこれと似た原理のことをやっているのです。

ただテッポウウオの放つ水弾は、時速36キロに達すると言われおり、人間のおしっこよりずっと高度なものです。

しかし、驚くべきはそれだけにとどまりません。

テッポウウオはこの他に、水中から獲物を正確に射落とすための「裏テク」を使っているのです。

水中から獲物を撃ち落とす「裏テク」がすごい

これまでの研究で、テッポウウオには、水面下から獲物のサイズや位置情報を把握し、それを撃ち落とすのに必要な水流を計算する能力があると判明しています。

テッポウウオは口先だけを水面に出して射撃するため、目は水中の中にあります。

そのため、獲物の位置は、光の屈折により、テッポウウオが見ている位置と少しズレてしまうのです。

にもかかわらず、テッポウウオは屈折によるズレを考慮しながら、獲物の位置や距離、サイズなどを計算しています。

水中から2m先の獲物を撃ち落とす!テッポウウオの「射撃のしくみ」を解説
(画像=光の屈折によるズレも計算ずみ? / Credit: jp.depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

さらに、独バイロイト大学の先行研究(Current Biology, 2014)によると、テッポウウオは水流を発射する際、獲物との距離に応じて、口の動きを微妙に変えていることがわかっています。

たとえば、口の開閉スピードを遅くすると、水流が安定し、加速度が小さくなるため、より長い距離の射撃に有効です。

口の動きの一連の調整は、すべてわずか数ミリ秒の間に行われます。

このようにテッポウウオの射撃には驚くべき機能がてんこ盛りですが、いまだ未解決の点も少なくありません。

たとえば、口先や骨の動きだけでなく、口内の筋肉や弁が射撃の精度を高めるのに役立っていると推測されていますが、その機能の全貌は明らかになっていません。

まだまだ、テッポウウオの秘密は奥深そうです。


参考文献

Inner ‘blowpipe’ explains how archerfish spit water with such deadly force

(2022) Video: Fish spits water like we throw spears

元論文

Phylogenetics of archerfishes (Toxotidae) and evolution of the toxotid shooting apparatus


提供元・ナゾロジー

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