数百匹もの魚の群れが、まるで1つの生き物のように泳ぐ姿は誰が見ても圧巻の一言です。
外部から制御されているわけでもないのに、なぜ彼らは個々の判断によってあのような統制の取れた動きを取ることができるのでしょう?
1月13日に科学雑誌『Science Robotics』に掲載された新しい研究は、LEDとカメラをつけただけの単純な仕組みの魚ロボットで、群れの動きを再現することに成功したと報告しています。
この研究は、魚たちがどうやって群れの動きを制御しているかを解明する、重要な知見になると考えられます。
通信しない単純な魚ロボット
昆虫や魚など、群れで秩序だった集団行動を行う生物はどうやってその動きを統制しているのでしょうか?
これはロボット工学者にとって、非常に魅力的な研究テーマであり、彼らはぜひともその動きをロボットによって再現したいと考えています。
こうしたテーマはスワームロボティクス(Swarm Robotics)と呼ばれていて、昆虫などに見られる陸の生き物については、ある程度成功を収めています。
しかし、水中でこの現象を再現することは非常に困難であると言われていました。
陸は2次元空間の動きですが、水中や空中の場合は3次元空間の動きになります。これを外部からの制御を受けずに、自立したロボットの群れで再現することは、飛躍的に難しくなるのです。
それは言い換えれば、魚たちがどうやって集団行動を実現しているかについてもまだ良くわかっていないということです。
ハーバード大学のロボット工学者による研究チームは、この問題について、魚たちは非常に単純なしくみだけを使って協調行動を行っているのではないかと考えました。
そこで彼らは視覚センサー(カメラ)2つと、LEDライト3つだけを組み合わせた、単純な魚ロボット「ブルーボット(Bluebot)」を開発しました。
このロボットは、胸びれ、背びれ、尾びれを模した可動部で泳ぎを制御し、外部からの制御などは受けていません。
しかし、このロボットは視覚内に仲間の青いLEDの光を検出するとアルゴリズムに従って、隣接する仲間との距離・方向を決定し、仲間と動きを同期させることができたのです。
この方法に基づいて、研究者たちはこのロボットに集合、分散、円形成などの複雑な組織的挙動を取らせることにも成功しました。
実際研究チームは、この魚ロボットたちの取った群れの動きを動画で公開しています。
その見事な挙動を見ていきましょう。
スタンドアローンなのに、集団行動する魚ロボットたち
各ブルーボットは暗黙のルールに従って隣接する魚の位置に反応します。
ロボットを集約する場合、各ブルーボットは隣接する仲間の位置を計算し、中心に向かって移動します。分散させたい場合には、これと反対の動作を行います。
輪になって泳ぎたい場合は、目の前のライトを時計回りに追うようプログラムされています。
この仕組を検証するために、研究チームは水槽の中の赤い光を捜索する簡単なミッションを実行してみました。
これはたとえば、魚が食べ物を探す場合などに見立てることができます。
このとき、ブルーボットはまず分散アルゴリズムに従って水槽全体に散っていきます。
そしてあるロボットが目的の赤い光を検出すると、自身のLEDを点滅させます。残りのロボットたちは、これをトリガーに集合アルゴリズムを働かせて、発見したロボットに集まって来るのです。
互いに通信を行ってコミュニケーションを取るわけでもなく、外部から制御を受けるわけでもなく、ロボットの群れはただ仲間のLEDの光を追うという単純な方法と暗黙のルールによって、集団行動を実現しました。
現実の魚たちは、こうした挙動の一部を派手な縞模様や、夜間の場合は生物発光などを目印に実現していると考えられます。
この研究は、非常に単純な方法で複雑な群れの動きを制御できることを示したもので、魚群の行動を理解するためにも重要な知見をもたらしています。
また、海洋調査などで利用可能な水中で稼働させる群体ロボットの開発にも役立つものになるでしょう。
参考文献
Harvard University
提供元・ナゾロジー
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