女性への暴力やセクハラは、女性に対する共感能力の低下から生じます。

「自分の言動で相手は嫌がるだろう」「相手は今とてもつらいはずだ」などと十分考えられないのです。

では共感反応が低下する要因にはどんなものがあるのでしょうか?

ポルトガル・リスボン大学に所属する生物物理学者カルロッタ・コゴニ氏ら研究チームは、露出の多い女性に対して人間の共感反応は低下すると発表しました。

研究の詳細は、2020年10月1日付けの学術誌『Cognition and Emotion』に掲載されました。

目次




相手の気持が想像できる?

コゴニ氏ら研究チームは、以前から性的対象化した女性に対する人々の見方を研究してきました。

以前の研究では、MRI検査によって、露出度の高い女性(性的対象化されやすい)に対する人々の脳の状態変化を調査しました。

その結果、露出度の高い女性に対しては、脳の共感を司る部分が活性化されにくいと判明。

露出の多い女性に対して人間は共感能力が低下してしまう
(画像=露出度の高い女性に対する共感反応を調べる / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

この結果を受けて研究チームは、脳だけでなく人々の認知・感情プロセスにも同様の変化が起こるか実験することにしました。

つまり単純に脳の反応だけでなく、人々が実際に「露出度の高い人には共感できない」と感じているか調べたのです。

新しい研究に参加したのは、170人の男女です。彼らは2回の画像実験に取り組みました。

1回目の実験では、コンピュータ画面に、心地よいと感じる対象物(例:ふわふわとした羽)、どちらでもない中立の対象物(例:木の枝)、不快に感じる対象物(例:クモ)の画像をそれぞれ表示。

参加者は表示された画像を見ながら、左手で同じような対象物を触りました。

その後、参加者は触った感触がどの程度心地よいか、あるいは不快かを評価。

2回目の実験では、同じ画像が表示されますが、触るのは被験者本人ではなく別の人です。

この代わりに触る人は女性のマネキン、露出が多く性的な服装をした実在女性、露出の少ない実在女性のいずれかでした。

そして参加者は、それぞれの代わりに触った人がどんな感情を抱いたか想像するよう求められました。

男性も女性も露出の多い女性に対して共感しにくくなる

実験は、被験者本人が触ったときの感情と、他人が触ったときの感情の類似度を評価しました。

その結果、触覚体験における自他の感情の類似度は、代わりに触った人の格好によって異なることが判明したのです。

自己と他者の感情類似度は、代わりに触っている人がマネキンの場合にもっとも低く、露出の少ない女性の場合にもっとも高くなりました。

また性的な対象となりやすい露出度の高い女性がターゲットの場合は、類似度が中間だったとのこと。

参加者たちは、自分が不快だった条件でも、露出度の高い女性は「それほど不快に感じていない」と思うことがあったのです。

つまり、性的対象化によって共感反応が低下したのです。

露出の多い女性に対して人間は共感能力が低下してしまう
(画像=男女共に露出度の高い女性には共感しにくい / Credit:Depositphotos,『ナゾロジー』より 引用)

さらに研究チームは、いずれの研究でも、露出の多い女性とそうでない女性に対する共感反応には、男女差が見られなかったと報告。

ただし、その反応に至るプロセスは異なっている可能性があると指摘しています。

コゴニ氏は、次のように述べました。

「露出度の高い女性に対して男性の共感反応が低下するのは、性的魅力の高まりによって身体的外見に注意が集中し、共有表現のプロセスが阻害されるためだと推測できます」

「一方、女性参加者の場合は、『露出によって差別化を望んでいる女性たち』に対する回避反応が原因かもしれません」

研究チームは今後、セクハラ問題に焦点を当て、共感反応の低下が行動とどのように結びついているか調査する予定です。

提供元・ナゾロジー

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