政治と言論に関わる大きな問題なので、敢えて2つのことを言っておきたい。当代一の売れっ子評論家、橋下徹氏(元大阪府知事)についてである。橋下氏はウクライナ問題で見逃し難い発言をしている。

第1に、露の侵攻当初、氏は戦争が続けば死者が増えるだけだから、さっさと「降伏せよ」と語っていた。実際問題、降伏しても殺人は終わらないと、ウクライナ人もNATO諸国の国民も知っている。ロシアとはどういう国なのか、プーチン氏がどういった人柄か。

かつてロシアがソ連邦だった時代、ソ連は日ソ中立条約を破って日本に宣戦布告した。日本の降伏後も攻撃をし続け、北方領土を略奪。その盗み取った4島を75年間も返さない。最近、条約や宣言を軽く破る手合いが増えたが、その筆頭がロシアである。

プーチン氏は旧ソ連の栄光に浸っているのか、ウクライナもロシアに属するべきだ、という妄想を抱いてウクライナを獲りに出てきた。領土さえ手に入れば、ウクライナ人などどうでもよいから、際限のない人殺しを始めたのである。併合するとか、占領するだけのつもりなら、国づくりのために人は生かしておくだろう。プーチン氏の執念は今も変わっていない。だからこそ和平案はまとまらないのである。彼の頑なさを知っているからこそ、米・NATO諸国は最大級の厳しい制裁を科しているのだ。

第2に橋下氏は、「中国に仲介を頼め」と言っている。中国は米・NATOの潜在的な敵であって、中国軍がいつ台湾を獲りに出てくるか、世界は固唾を吞んで見守っている。その中国に仲裁を頼むという発想は「外交的無知」としか言いようがない。中国はこのドサクサに紛れてはっきりとロシアの上に立ち、世界に下知する立場を固めようとしている。

維新は野党第一党の地位を狙うと宣言しており、それは日本の政治のためになると思ってきたが、橋下発言で思い込みは消えた。

戦争を忌避する気持ちは分かるが、忌避する気持ちだけでは命は守れない。かねて維新の憲法改正案に「第9条」が含まれないのを残念に思っていたが、橋下氏の本心は9条の信者だったのだ。しかし9条信者だと思われたくないとの思惑が維新にも流れていたのか、3月24日、参院の外交防衛委員会で維新の音喜多駿議員が質問の前にこう断りを述べた。

橋下徹さんは日本維新の会の創設者であり、敬意を抱いているが、今は民間人で党とは関係がない。ウクライナ情勢については、我が党の公式見解とはかなり大きな隔たりがあるということを予め申し上げたい

この際、維新は「橋下氏とは関係がない」と天下に明らかにしておかないと、参院選は大敗けするだろう。共産党は「護憲」と言うだけで国家の姿も政策もさっぱり見えなかったが、志位和夫委員長は、プーチン氏が武力を使って暴れるのは、ロシアの憲法に「9条がないから」という趣旨のことを述べている。橋下氏同様の外交音痴。話にならない。

(令和4年4月13日付静岡新聞『論壇』より転載)

ウクライナ情勢に見る外交オンチ:橋下発言と志位発言(屋山 太郎)
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2022年4月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。

文・日本戦略研究フォーラム(JFSS)/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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